平成10年度 優秀畜産表彰等事業に係る優良事例紹介
1.経営の概況紹介
自家生産牛の改良を主眼とした少数精鋭主義ですが、輸入優良種雄牛精液の導入や牛群検定成績を活用した牛群の改良により、現在県下でもトップクラスの技術成績を残し、収益性についても高水準の実績を残しています。 発酵堆肥の生産にも取り組み、有機質肥料として地域耕種農家への還元や野菜・お茶農家への販売を行っています。一方、転作田や所有者の高齢化による耕作放棄地を借上げて、飼料畑を確保し、自給飼料(サイレージ)生産にも力を入れています。その取り組みは、地域の土地遊休化防止と環境保全に役立っています。 また、地域における活動や組織活動には、仲間づくりや情報交換の場として積極的に参加し、若手酪農家や地域のリーダーとして活躍しています。 このように、堅実な経営により酪農経営を継続させていくため、耕種農家との連携や仲間作りにより地域との共存を考えた経営を展開しています。 2.経営の特徴 (1)家畜ふん尿処理・利用方法と環境保全の取り組み ふん尿の処理は、二通りの方法を取っています。堆肥舎で「発酵促進剤」を混ぜ併せて切り返し・堆積発酵する方法とハウス式の乾燥施設で乾燥させる方式です。それぞれの方式で出来上がったものを、混合して再度堆肥化し、完熟堆肥を生産しています。また、稲作作業受託農家との契約により水田への散布作業を受け持っています。これは、堆肥散布面積の拡大が目的であって特に報酬は受け取っていませんが、契約地からは交換に稲わらを収集しています。 (2)地域との協調・融和という点からみた活動 堆肥の散布面積は、口コミで年々広がっており、敷料として利用する稲わらの確保が容易になりました。また、遊休地を借入れ飼料作を行っていますので飼料畑周辺は、草を刈り景観にも気を配っています。 (3)経営の継続性と取り組み 地域に合った牛舎、我が家に合った酪農を目指し「少数精鋭主義」をモットーに32頭牛舎を建築しました。 平成8年6月から県牛群検定組合に加入し、それまで自家検定により進めてきた牛群の改良をより詳細なデータの収集・利用によって高レベルに押し上げ経済性の優れた牛群への改良を進めています。 また、現在は、FRP簡易型サイロを利用し、サイレージ生産を行っていますが、労働力の軽減とより良質のサイレージ生産を目指して、カッティングロールベーラを導入する予定です。これにより高齢化による耕作放棄地を借入れ、飼料畑の面積が拡大できると考えています。 このように、規模拡大が困難な条件のなかで経営を存続、向上させるため乳量を維持しながら経済性を向上し、堆肥の有効利用を考えながら地域耕種農家との連携と休耕地の活用が必要であると考えています。 3.特色ある取り組みと内容 (1)糞尿の処理 当初は、自作田や飼料畑に還元し、経営内での処理ができましたが、牛群の成績が上がるにつれて糞尿の量も増え処理が難しくなりました。牛糞乾燥機や堆肥舎を導入し、試行錯誤の末、完熟堆肥の生産にこぎつけました。 堆肥舎での切り返しによる発酵堆肥の生産により、近隣のお茶・野菜農家に販売できる完熟堆肥を生産できるようになりました。稲作農家の利用ですが、現在堆肥散布を行っている面積は、一般契約農家230a、作業受託農家との契約による150aとなっています。また、散布は利用者の立場にたった配慮を行い利用面積も年々拡大しています。
これまでは、自家検定により改良を進めてきましたが、牛群検定実施により、近交係数を重要視することで乳量水準を落とさずに乳蛋白、肢蹄、耐久性を向上させ経済性を上げるような種雄牛を利用しています。より詳細なデータの活用で淘汰基準が明確になったこと、繁殖管理が一目で分かること、空胎日数が改善されたことがはっきりと表れています。 4.取り組みを支えた経営管理技術・生産技術 (1)濃厚飼料配合内容の変更 産乳量を増やすため情報誌や研修会の情報を参考に試行錯誤を繰り返してきました。そんななかで、ある大規模酪農家のアドバイスで完全配合飼料と自家配合飼料の比率を7対3から3対7に逆転させました。 これにより、飼料コストの低減と産乳量に合わせ栄養内容や配合量が自由に調整できるようになり、給与バランスが取り易くなりました。これが、現在の飼料配合の基礎となっています。 (2)パソコンによる経営管理 平成7年から税務処理のためパソコンを導入し経営管理を行っています。 普及センターの指導を受け慣れないながらも始めたパソコンですが、現在はパソコンで経営管理を行ない青色申告を行っています。 (3)取り組みを支えた外部支援等 普及センターの指導で、サイレージの分析を行ってもらい飼料給与時の参考としてきました。また、補足的に飼料給与診断を受け、乳量ステージごとの給与内容をチェックしています。 糞尿の処理については、石灰との混合や尿施用等、堆肥の処理と地域内耕種農家との連携を考慮した技術指導を受けてきました。 平成7年から試験的な取り組みとして、水田の追肥に尿を水で希釈し、水田に施肥する「水田尿施用」を20aに実施しました。平成8年、9年と尿施用の実証試験は続けられ、9年は40aに実施しました。 結果として肥料を水田にやる手間がかからない、食味が良かった等の効果が認められたことから村としても畜環事業で尿施用を村内に推進して行く方向です。 5.今後の目指す方向・課題 (1)作業効率の向上 耕種農家への堆肥還元がうまくいっている一方で、堆肥と交換に収集する稲わらの収集面積も増えており、作業の軽減が課題となってきました。カッティングロールべーラの導入で作業の軽減と効率化を図っていく計画です。 (2)耕種との結び付き 今後も耕種農家との連携を大切にして土壌還元面積を増やして行かなければなりません。これには、良い作物が生産できるように良質の堆肥生産を心がけ、耕種農家の理解を深めて行くことが第一と考えています。 (3)今後の経営方針 酪農経営に従事している以上、1万キロ牛群に挑戦してみたいと思っています。しかし、乳量だけではなく、肢蹄・耐久性・乳蛋白等経済性についての改良を進めながら実現したいです。あくまでも乳価の低下は乳量で補い、余った時間を堆肥散布や平成10年から実施している稲作作業受託にあて牛に影響を与えない経営を続けていくつもりです。 また、高齢化による耕作放棄地が年々増えていますので積極的に借入れて自給飼料生産面積を増やし自給率を向上して行く計画です。 そして今後も堅実で安定した経営を行うため過剰投資を避け、売り上げの1割を借入金の上限とした方針でこの時代を乗り切っていきます。しかし、現在構想段階である共同の飼料供給センターについては具体的になれば思い切った投資も惜しくないと考えています。 |