平成11年度優秀畜産表彰等事業に係る優良事例紹介

食を通して「消費者へ」「未来へ」アピール

消費者に安全な食糧を供給するという自負と責任感を追い求めた
結果安全性第一の経営形態になった。

三重県南牟婁郡御浜町 カントリーファームにしうら

この事例のコンセプトは、安全性の追求と安心の提供であり、
過疎化する郷土を守り抜こうとする郷土愛である。

概  要

 当経営は県最南端の紀州地域に位置しています。県庁所在地から車での時間は約3時間強、肉豚出荷、飼料調達の場である名古屋まで車で約5時間強の距離に位置しています。県内の養豚農家戸数は100戸、地域内の同戸数は5戸といった環境の中での経営です。
 こういった物理的な遠隔地にありながら、自ら出荷作業を行い、帰路に飼料を購入してくるといった方法を取っています。飼料は自らの吟味した原材料を購入し、自家配を実施し、納得のいく豚を生産するための手段としています。

 養豚業を営むに当たり経営主が求めたものは、「薬に頼らない経営」であす。毎日毎日注射器を片手に農場を巡回するような経営に疑問を持った結果です。外部からの導入によって病気が農場へ持ちこまれることを防ぐために、自家産豚による閉鎖群の造成に取り組みました。10年以上の歳月をかけて抗生物質に頼らずとも病気に強い群を造成することに成功しました。

 

1、安心性重視の経営方針

1)飼料の購入

 飼料はすべて名古屋港にある飼料工場から原材料別に直接に仕入れ、農場内の飼料倉庫で配合しています。

 名古屋で買うということは、名古屋市場への肉豚出荷の帰り荷として積みあわせることができるため、輸送費が最低に押さえられるといことであり、一石二鳥のしくみとなっています。ただし、原料は吟味された上質のものを使用しているため、他の農場と比べてコストが安く上がっている訳ではなく、むしろ高めであるようです。敢えてこういった購入方法を採用しているということは、原料にもこだわっているということです。

全景2)閉鎖群による飼育とその効果

 13年ほど前から当農場では閉鎖群による飼育を行ってきました。これは、「種」として閉鎖された範囲での飼育、また「空間」として閉鎖された飼育の両方を意味しています。  まず、種としての閉鎖ですが、ここ13年間、外部からの種豚導入をほとんど行わず、自家産豚のみで、独自のラインを生産してきました。

 また、当地は県南部の山間地域に位置し、周囲から疾病の感染、伝播などは考えられない環境にあります。

 これらのことから、国の指定ワクチンは使用するものの、それ以外の投薬はほとんど行わず、通常の1/5程度の量の投薬しかしていません。また、乳酸菌等の有効な微生物を利用して、豚を体の中から健康にし、すくすく健康に育つ豚作りを行っています。

2、地域や消費者との交流

1)家畜ふん尿の適切な処理と地域に密着した流通

 処理の形態は、スクレーパー、ショベル等でふん尿を豚舎から搬出し、若干のオガクズと半年ほど寝かした戻し堆肥を添加し、サークルコンポで約1ヶ月をかけて発酵処理をしています。オガクズについては、近在の製材所等から、無償で入手しています。 堆肥化された製品については、町内のみかん生産農家に供給しています。(当町は県内では特にミカン生産が盛んな地域です。)  町内への供給は運賃のみとし、堆肥そのものは無償です。町外への供給も距離に応じての運賃のみとなっています。

こぶたちゃん2)消費者等とのふれあい

 消費者等の意見を直接聞きたいという想いから、自家産豚の販売を試みています。販売頭数は、全出荷頭数から見れば微々たるものですが、ストレートに入ってくる自家産への評判、批評に耳を傾け、今後の経営のあり方について考える際の糧にしています。

 また、後継者である長男は、地域の小中学校に招かれ、農業のあり方や畜産を通しての食糧生産の意義や自立して経営に当たる抱負を講演したり、地域の活性化を推進するためにコンピュータの可能性を教授し、新しい地域産業の振興のために努力しています。

3)インターネットを通じての情報発信と情報収集

 当農場では、インターネット上にホームページを開設しています。

 技術的な面より親しみやすさを前面にだしたものにしたいと考えています。これは、「スーパー等で並んでいるものすべてに生産者がいるんだよ。」ということを主張できる場であると考えているからです。

 一方、情報収集については、必要な時に必要な事柄を調べるだけなので、特に変わった使い方をしているわけではありませんが、交配、遺伝関係とか、飼料などの価格推移を予測するための情報収集を行っています。

3、養豚業界、地域社会への貢献

 経営主は県の養豚発展のためにもその功績は大きく、長年にわたり県の養豚団体の要職として会員から厚い信頼を得て県全体の養豚の繁栄に努力しています。

 当経営が行われている地域は、いわゆる過疎化の進む地域ですが、地域の活性化ということを常に主眼において畜産業を営んでいます。

 後継者は、畜産を含む農業全般への理解、啓蒙普及あるいは農業後継者としての自分の生き方・考え方を地域の中学生たちに語ることによって活性化につなげようとボランティアとして講演に招かれています。経営主に勝るとも劣らない郷土愛の持ち主である後継者であり、幅広い年齢、人脈からの支持が感じ取られます。

4、今後の目指す方向・課題

ぶたさんたち1)安全で安心できる食糧の供給のために経営を続ける。

 長い年月をかけて築き上げてきた自家産豚は、病気知らずで安全な食糧供給という経営主の考えを実現できる重要な役割を果たすに至りました。経営開始当初からの目標である安全性の追求は今後も当然の如く追い求めるところです。

 飼料の給与についても、よりおいしい肉を消費者に届けるため、原料の厳選を続けていきます。現在、この取り組みのために魚粉を含まない飼料給与を始めています。魚粉の給与を中止することで、肉の臭みはなくなり、また、畜舎の臭いにも変化が表れてきているようです。

2)いわゆる「儲けるため」の経営にはしない。

 分娩回数、分娩頭数を初めとしとして現在の生産技術数値は、決して高い成績ではありません。閉鎖群による飼育形態が弊害をもたらしているようであることは、経営主・後継者共に認識するところです。これを簡単に解決しようとすれば、外部からの種豚導入を実施し、薬を使用すればよいのではあるが、敢えてこの方法は取りません。

 経営主は、自らのことを「経営能力は劣っていないものの、経営の才能はないのかもしれない」と分析しています。儲けるだけの経営にはしたくないのです。良い肉、喜んでもらえる肉を作るために、利益はほどほどの水準を保てれば良いと考えています。

3)地域に密着した経営でありたい。

 郷里に対する想いは経営を開始した頃と現在も変わりません。また、後継者は地域の活性化のために長期的な視野を持ち、ボランティアとして献身努力する姿勢は、確固たる信念に基づいています。寂れ行く過疎地の最後を見守ると共に、新しい芽を育て上げていこうという意欲が感じられます。

 
労働力の構成 家畜の飼養状況
土地の所有と利用状況 施設等の所有・利用状況