経営部門
養豚
部門
消費者との交流と声が育てる養豚経営
有限会社 小林ファーム
代表者 小林 勝彦
 
1.経営管理技術と特色ある取組み

繁殖成績が優秀である

 種雌豚の導入先が全国的に繁殖・肥育等の成績を一元管理し、グループ員の繁殖成績の向上に努めている。本事例は、県内養豚生産者の中でも繁殖成績に優れていることは言うに及ばないが、当グループの中でも常に高位な飼育成績を維持している。畜産団地の一角に位置する養豚場であることから、飼育環境にも恵まれ広い土地を有効に活かした豚舎は、余裕のある面積を確保できている。ここで飼育される肉豚はストレスを受けることもなく生育は順調で、当期の平均離乳日齢19.3日、同体重5.7kg、平均出荷日齢173日、出荷体重116kg(枝重75.4kg)という成績に現れている。

オールインオールアウト方式の採用

 肉豚の飼育方式(移動)は、群単位で行うオールインオールアウト方式を取っていることから、衛生管理も従来に比べれば飛躍的に容易となり、省力化、良好な衛生状態の維持に役立っている。 分娩後約20日齢で離乳しその後70日齢までを、平成9年に畜産経営効率化リース助成事業で導入したコンテナ型哺育施設(ピギーパーラー)で飼育する。当施設の導入は離乳後の子豚の育成成績を大きく変化させた。空調、湿度、温度等が一定に管理できる他、初期の飼料給与は手作業で行うが、子豚が慣れた後は、飼料の自動給餌もできる。当施設からは、斉一化された子豚が生産されている。 群単位での移動のため豚房にも無駄がなく作業効率も上がっている。

優良堆肥の生産と地域への還元

 堆肥化処理は、スクレーパーによる除糞後、コンポストにより省力化された処理がなされている。三重県の茶生産量は、31,900トン(平成13年統計 *1下記参照)であり、当養豚場が位置する地域も県内有数のお茶の生産地である。このことから処理された堆肥は近在のお茶生産農家を中心に家庭菜園的な消費まで、幅広い支持を受けており、これらの利用者にはすべて無償で譲渡されている。 (*1:三重県の茶生産31,900トン:平成13年度全国の生葉収穫量389,600トンの内、静岡176,000トン、鹿児島98,200トンに次ぐ第3位。当地域(市)の県内での生産量割合は10%強である。)

ブランド肉の生産と飼料の共同購入

 平成2年、志を同じくする養豚仲間3戸によりもと豚、飼料、飼育方法等を統一することにより、独自のブランド肉「三重クリーンポーク」の生産を始め、特定のスーパーで販売してきた。現在の3戸の総母豚数は750頭であり、ここから年間15,000頭の肉豚が出荷されている。 飼料の購入については、当グループの3戸を含む10戸で入札制度を取り入れ、共同購入し、良質な飼料の入手と低価格を実現している。購入する飼料は植物性のものに限定し、全て加圧、加熱処理した安全な飼料である。 経営成果の良否を左右する大きな要因である販売と飼料については、共同という形態をとることによって、有利な経営を進めている。

青年農業士仲間との地場販売

 豚肉の販売では、個別販売も始めた。地域を同じくする青年農業士グループの仲間と共に、いわゆる青空市場的な販売を実施し、顧客の評価を受けている。当販売所の発足に当たっては、地域の青年農業士らとの交流が基礎となっている。当初の活動状況は決して活発とは評価できない状態であったが、「生産者の顔が見える販売」を語り合っている内に、生産するものは異なっているが、求めているものが同じであることに意気投合し、地場販売のスタートとなった。
 販売は仲間(お茶生産者)が有する店舗を月に一度借用し、ここで米、お茶、花、野菜、鶏卵、そして豚肉といった農畜産物を販売している。開店は平成12年11月であったが、口コミによる評判が功を奏し、現在では固定客も多く見られるようになってきた。
 こういった活動内容が、他市の商店会にも知れ渡り、昨年度から同商店街の空き店舗への出店を要請され、これに応えた。こちらも開店は月に一度であるが、徐々に顧客の確保ができてきている。
 なお、個別販売に当たっては当初経営主が、青年農業士活動という観点から参画していたが、その後販売に興味を抱いた奥様が担当となっている。 また、今夏ではあるが、オリジナルホームページを開設し、より幅広い顧客に対して情報発信を開始した。

奥様の地域活動

 奥様の地域活動は、平成5年に農業改良普及センターの呼びかけで発足した専業農家のヤングミセスの会「ヤングウェーブ女性の会」と小学校の児童や教職員を対象としたウィンナ作り教室がその代表的なものである。
 前者の活動もすでに10年目となり、本年度は会長に就任し中心的な存在となっている。同会では簿記研修、料理講習、先進地の視察といった定期的な活動や平成9年には英国への海外研修も実行できた。会長となった本年は、農業関係雑誌(NOSAI)への寄稿や県主催の集会等にも積極的に参加しグループの輪を広げている。
 後者のウィンナ教室は、5年目を迎えている。子供達が通う小学校で当時「お楽しみ会」でウィンナ作り体験として始まったこの活動は、現在は教育制度に「総合学習」として取り入れられている。地元で生産される豚肉に親しみを持ってもらい、できあがったウィンナは、新鮮で安心でおいしいと大変好評である。児童対象の教室の評判は教職員の間にも広がり、教職員を対象とした教室も開催している。教室では、手づくりの大きなレシピを貼り、かわいい豚のイラスト、豚舎で遊ぶわが家の子供たちの写真など「出張道具一式」を持って出かけている。
 この教室はその後市内の小学校数校でも取り上げられ、おいしさを味わってもらうと共に養豚というものを身近に感じてもらうという喜びにもなった。

2.経営の概要と実績

(1)労働力の構成

区分 続柄 年齢 農業従事日数
   うち畜産部門
年間
総労働時間
備 考
(作業分担等)
家族
(法人)
本人 41歳 340日 340日 2,720 飼育管理全般・出荷
40歳 300日 300日 1,200 経理、肉の販売・配達
70歳 100日 100日 200 飼育補助
62歳 300日 300日 1,800 分娩管理
長女 14歳        
次女 12歳        
長男 10歳        
次男 1歳        
常雇 41歳 300日 300日 2,400 場長、繁殖・飼育全般
36歳 280日 280日 2,240 糞尿処理・清掃等畜舎管理
臨時雇 のべ人日     主な作業内容
労働力 計6人 1,620日 1,620日 10,560時間 労働単価
         5,640円

 ※父・母の労働強度は軽い

(2)収入等の状況

区分 種類
品目名
作付面積
飼養頭数
販売量 販売額
収入額
収入
構成比
概ねの
所得率
農業収入 畜産 肉豚販売 ♀200頭 4,800頭 170,752,000円 97% 24%
事業外収入 奨励金等   5,300,000円 3%  
耕種          
林産            
農外
収入
           
合計       176,052,000円    

(3)土地所有と利用状況

区分 実面積     
   うち借地
畜産利用地
面  積
備 考
個別利用地 耕地        
       
樹園地        
       
耕地
以外
牧草地        
野草地        
       
畜舎・運動場 2ha 2ha   会社が父より借用
その他 山林        
原野        
       
共同利用地        

(4)家畜の飼養・出荷状況

品 種
区 分
種雌豚 種雄豚 肉豚    
期首 213 6 2,355 肉豚:離乳以降
期末 202 6 2,212
平均 209 6 2,321    
年間出荷頭数     4,811    

(5)施設等の所有・利用状況

種 類 構造
資材
形式能力
棟数
面積数量
台数
取   得 所有
区分
備  考
(利用状況等)
金額(円)
畜   舎 分娩・ストール舎
肉豚舎
倉庫
子豚哺育舎
子豚哺育舎
種豚舎
肉豚舎
肉豚舎
肉豚舎
離乳舎
木造
木造
鉄骨
コンテナ型
コンテナ型
鉄骨
鉄骨
鉄骨
鉄骨
1,080u
780u
108u
108u
525u
800u
495u
210u
100u

H10.8
H10.12
H11.4






4,011,033
3,849,750
7,563,606






個人
個人
個人
リース







H9効率化リース





施   設 井戸ポンプ
尿溜槽
ストール
自動給餌施設
スクレッパー
自動給餌施設
シャワールーム
浄化槽
堆肥コンポ
  一式


一式
一式
一式


39m3
H11.8
H12.8
H10.5
H10.5
H10.5
H10.5
H13.7
H14.4
H7
595,350
1,037,600
260,000
288,900
406,000
1,730,889
665,586
2,078,000
29,870,000
個人
個人
個人
個人
個人
個人
個人
個人
個人






従事者用

H7県単事業
機   械 バックフォー
トラック
クーリングパッド
パソコン
パソコン
クーリングパッド
マルチファン
動力噴霧器
豚計量器
  1台
1台
1台
1台
1台
一式
一式
1台
1台
H12.9
H10.6
H10.5
H10.5
H14.4
H13.10
H13.12
H10.5
H10.5
950,000
655,960
333,481
286,181
249,600
750,000
296,910
244,400
271,129
個人
個人
個人
個人
個人
個人
個人
個人
個人
 

 施設・機器具については、有限会社へ移行時に評価価格を決定し、経理上の資産として計上したものと、 表中取得価格未記入のものは、父所有物件を会社が借りているものとがある。

(6)経営の推移

年次 作目構成 頭数 経営および活動の推移
昭和30年代

昭和42年

昭和54年

平成元年


平成7年


平成9年


平成12年

平成13年

平成14年
稲作+養豚

養豚専業
















♀10頭

♀120頭



順次増頭


♀200頭









♀200頭
自宅敷地内で養豚(父親)

一貫経営(現在の農場:畜産団地へ移転)

本人就農(就農前に渡米:2年間の養豚留学)

養豚家3戸で「三重クリーンポーク」としてブランド
販売開始

コンポスト導入
(平成7年度鈴亀地区県営畜産環境整備事業)

コンテナ型子豚哺育舎導入(経営効率化リース)
オールインオールアウト方式採用(哺育育成舎完備)

農産物直販「夢市場」開設

平成13年「夢市場」2号店開店

オリジナルHP開設

3.家畜排泄物の利活用と環境保全対策

1 固液分離処理の状況
 一部分離 混合処理

2 固形分の処理(堆肥化処理等)
 処理方式・関連施設等について記述。 種豚舎、肉豚舎のふん尿は、固液分離する。 スクレッパーで、糞を寄せ、スクリューコンベアで舎外へ出す。 ショベルローダでコンポストへ投入処理し、堆肥化されたものは堆肥舎へ。 堆肥舎に積まれた堆肥は近在のお茶生産農家を主に無償譲渡する。

3 液体(尿・汚水)の処理
 処理方式・関連施設等について記述。 浄化槽で処理した後、放流する

4 混合処理
  処理方式・関連施設等について記述。 離乳舎のふん尿は、混合処理する。 貯留槽で1週間、浄化槽で処理し、放流する。 固形分は舎内の貯留槽内で発酵処理。

5 処理フロー図
  菌の利用:EM菌を利用している。飼料に1%の割合で添加している。

処理フロー図

(2)家畜排せつ物の利活用

[1]固形分

内 容 割合(%) 品質等
(堆肥化に要する期間等)
販 売    
交 換    
無償譲渡  100%  
自家利用    
その他    

[2]液体分

内 容 割合(%) 浄化の程度等
土地還元    
放 流 100%  
洗浄水    
その他    

(3)評価と課題

1 処理・利活用に関する評価

 糞については、コンポストで処理され良質のものが仕上がっている。
 利用は、100%無償譲渡であり、周辺のお茶生産農家を中心に利用されている。季節により堆肥堆積量に変動はあるが、利用の少ない時期でも、充分な面積(堆積)を確保している

2 課 題

 堆肥の換金化検討の必要があるかもしれないが、堆肥の地域有効活用という面、作った堆肥を残さないということを重視すれば、現状の無償譲渡を継続するのがベターな方法かと思われる。

(4)その他

 畜舎は緑豊かな畜産団地の一角に建てられている。
 関係者以外が普段この農場を訪れたり、目にしたりすることはほとんどないが、直販をしている関係上、稀に一般消費者等が視察に来場することもある。
 花を植えるといった特別な美化はしていないが、場内の清掃、除草、整理整頓は飼育環境の整備といった面からも常に心掛けて実施している。

4.地域農業や地域社会との強調・融和についての活動内容

直販による一般消費者、耕種農家等とのつながり

 地域の青年農業士が集まり、今後の農業のあり方を語り合ったことがきっかけとなり、直販が始まった。当初、こういった集いの活動はあまり積極的でなく、これといって明確な活動内容もなかったが、お互いの仲間内で、「直接、消費者に販売をしたい。」という気持ちのあることが確認できたことを出発点にして、農業祭で直販を経験し、その後「大地の耕作人」というグループ名で「夢市場」という名のいわゆる青空市場的な販売を平成12年11月から始めるようになった。
 参加者は、地域の農業青年らであり、販売する生産物は、お茶、野菜、花、果樹、鶏卵、そして豚肉といった農畜産物である。
 店舗は、仲間内のお茶生産農家(販売も従来から取り組んでいた)のものを借用し、月1回の開店としている。
 直販を継続できるか否かのカギは、顧客ができるのか否かにかかっていたが、固定客もでき第1号店の評判は上々のようである。
 こういった活動内容を隣接する市の商店会が聞きつけ、寂れた商店街の活性化のひとつとして、空き店舗の提供を申し出てきた。これを受け昨年から、駅前商店街の一角でも同様の店舗販売を開始することになった。
 青年農業士の集まりということから、この活動には当初経営主が参画していたが、現在では、販売という新しい局面に興味を抱いた奥様が携わっている。
 さらに自家販売の拡大に取り組もうとして今夏オリジナルのホームページを開設し、積極的な情報発信に取り組んでいる。HPへは、奥様が作る豚肉を使ったレシピ等も掲載している。

専業主婦仲間との活動

 奥様は平成5年に農業改良普及センターの呼びかけで発足した専業農家のヤングミセスの会「ヤングウェーブ女性の会」に参画している。
 この活動もすでに10年目となり、本年度は会長に就任し中心的な存在となっている。同会では簿記研修、料理講習、先進地の視察といった定期的な活動や平成9年には英国への海外研修も実行できた。会長となった本年は、農業関係雑誌への投稿や県主催の集会等にも積極的に参加しグループの輪を広げている。
 また、活動の様子は本年6月に地元テレビ局でも取り上げられ、生き生きとした会員の様子が放映され、会員自身の新たな活力ともなった。

教育の一環としてのウィンナ作り教室

 小学生を対象としたウィンナ作り教室は、5年目を迎えている。わが子達が通う小学校でその当時は「お楽しみ会」として始まったこの活動は、当初は授業以外の活動としての位置付けであったが、現在では教育制度の変革に伴い「総合学習」として授業の一環として取り入れられている。
 (活動の内容等は、前述の「経営管理技術や特色ある取り組み」の項参照。)

堆肥を通しての地域とのつながり

 畜舎はお茶畑に隣接した畜産団地の一角に位置していることもあって、堆肥はコンポで処理した後、全量を無償譲渡している。経営主の言葉を借りれば、自由に取りにきてもらうのが当然の状況となっており、24時間営業だそうである。

5.地域農業や地域社会との強調・融和についての活動内容

 経営者自身がまだ若く自らの後継者を云々といった段階ではないので、現在は雇用職員のスキルアップに努めている。場長は経営主と同年代でもあり、かつ勤務年数も7年を超えてきている信頼のおける存在となっている。場長には、民間が開催する養豚研修にも参加させ、技術の習得をさせている。場長は、日常の飼育管理全般については、経営主不在でも不自由なく任せることができる能力を備えている。
 経営主自身は、就農前にアメリカに渡り、1年間の養豚研修を受けた。実地による現場での研修は、効率的で生産性の高い養豚技術を学び、今日でも海外からの情報を積極的に捉えらえるよう心掛けている。

6.今後の目指す方向と課題

 消費者からの率直な意見を聞ける直販部門には、興味が増してきている。消費者に喜ばれるおいしい、安全、安心の豚肉を生産してくことを基本にし、できる限り自家販売の割合を増やしていきたいのが、第一の目標であり、希望でもある。
 生産の規模は、土地面積、労働力等を考慮すると、現状規模が適切であるかと判断している。また、現況の豚舎の内、種豚用ストールの数を考慮すると、新規の拡大は農場全体の収容頭数にも影響を与えると予測されることから、この面においても現状維持ということになる。
 また、資金調達面から考察を加えると、経済不況が続く中、土地の評価額が下がっていることもあり、資金借入は従来に比較すると困難になっているといえよう。
 ただし、現在すでに具体的に計画を進めているのは、肉豚舎の新規増築と、旧浄化槽を利用した離乳豚舎の建築である。肉豚舎は敷地内の未利用部分への建築であり、離乳豚舎は、旧の浄化槽跡の有効利用を考えたとき、これを基礎(工事)として、この上に離乳舎を建築することを思いついた。現況でも飼育密度に問題はないが、これらの豚舎を建築することで、現在行っている群単位のオールインオールアウトを豚舎単位のオールインオールアウトに移行できれば、疾病の感染はさらに減少し、衛生管理を更に充実させられるという狙いがある。
 生産性の向上については、上述の施設の充実を図っていくことで、マイナス要因がまたひとつ減ることになり、結果として全体の成績向上に寄与していくことと考えられる。
 安全で安心の豚肉を消費者に届けるためには、現在使用している抗生物質や薬剤を一切使用しなくても良いような養豚経営ができればとも考えている。
 あるいは環境のリサイクルという面で、バイプロでのリキッドフィーディングの可能性を模索しているところでもある。

 
7.事例の特徴や活動を示す写真
 
豚舎全景

豚舎全景
(緑に囲まれた畜産団地の一角にある。
後方の山並みは鈴鹿山脈の山並み)
豚舎周辺 

整理整頓の行き届いた豚舎周辺。
豚房はゆとりある面積が確保されている。
ピギーパーラー

離乳後の育成子豚を育てるピギーパーラー。
飼育環境がコンピュータ制御できる。
コンポスト

良質堆肥を生産するコンポスト。
できあがった堆肥は無料で譲渡される。
夢市場

青年農業士仲間で開いた「夢市場」は
多くの人で賑わいをみせる。
教室の様子

小学校で開催する「ウィンナ教室」
おいしい!楽しい!新しい発見がいっぱい。
三重クリーンポーク

養豚仲間3戸で取り組むオリジナルブランド
「三重クリーンポーク」
パンフレット

宅配もします。
インターネットでの注文も受け付けています。
小林さんご夫妻

生産現場担当の勝彦さんと、販売担当の陽子さん夫婦。