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養鶏
部門 |
常に新しい夢にチャレンジ。
若者に魅力のある自作農家になりたいと願って。 |
株式会社 地主共和商会
代表者 地主 隆弘 |
1.地域の概況
多気町は、三重県のほぼ中央、伊勢平野の南端部に位置し、町の中央を流れる櫛田川と、日本を代表する清流として有名な宮川に抱かれた環境にある。
伊勢自動車道の勢和多気インターが町内にあることから交通の便は良く、さらに紀州方面への高速道路(紀勢自動車道)の整備が進められ2009年2月には紀勢大内山ICまで開通したことにより、企業の誘致や観光開発等で新しい局面を迎えようとしている。
町の土地面積は約103km2で、森林が55%、田畑が約20%を占めている。気候については、年間平均気温14.9℃と比較的温暖で積雪を見ることはごくまれな恵まれた自然環境にある。農業では、米を中心に伊勢芋、みかん、柿、茶、葉タバコ、シイタケなどの栽培が行われている。町内の畜産農家戸数は、乳用牛3戸、肉用牛15戸、養豚2.戸、採卵鶏9戸である。なお、三重県下の採卵鶏農家戸数は、89戸である。
2.経営管理技術や特色ある取り組み
(1)自立できる経営を目指して
当事例は、現在の代表取締役の父が起業した家畜用飼料を販売することを目的に生まれたものであり、先代の時代には、養鶏部門は営んでいなかった。現在の代表取締役が会社に入り継承した後、多角的な経営を目指すようになり、先ず鶏卵販売部門に進出し、さらには採卵養鶏部門も新たに経営に取り入れた会社である。
飼料販売や鶏卵取引の中で、顧客(畜産農家)との付き合いの中で感じ始めたことは、畜産農家の経営は、常に相場に左右される運命にあり、非常に不安定な立場であるということだった。
倒産し、廃業を余儀なくされる農家を目の当たりにし、今後の畜産がどうあるべきかを考えた末に、行き着いたのは、「相場に左右される小作人であってはならない。地主にまではなれないとしても、少なくとも自作農家にならなければ、農業の将来に夢がないのではないか。」という結論であった。
人と同じものを作っているだけでは、置かれた環境は変えられない。それならば「差別化商品、今、市場にはない商品、消費者を引き付ける商品」を作れば、自分で価格を設定し、販売できるだろうと考えた。
着眼したのは「平飼養鶏」であった。過去に庭先で飼われていた鶏は、すべて平飼いであったが、大量生産、低コストの波に流され、専業の採卵農家であればケージ飼いが当然であると考えられていた時代のことである。
先ず、養鶏農家に平飼いによる養鶏を委託して、これを進めようとしたが、なかなか自作農(自分で価格を決定する)の生き方を理解してもらえず、逆に人のやらないことをやるとリスクが伴って危険であると判断され、委託による平飼養鶏はスタートできなかった。
ならば自分でやってみようと3,000羽規模の平飼養鶏を始めたのが平成元年のことであった。当時の営業担当(現在の常務)と、「付加価値をつけた鶏卵」を販売するために営業を続けたものの、なぜ価格が高いのかを消費者に理解してもらえず、苦しい経営が数年続いた。
その後、消費者の意識にも変化が現れ、「健康食品ブーム」が到来するなど、差別化商品が理解されるようになり、販売も波に乗り始めた。現在は、自社内で小売もしているが、主流は全国30数県に及ぶ健康食品取扱店等の卸・小売店への販売で、その流通は大手運送会社との契約によりトラックで毎日配送している。
販売ルートには、中間業者(卸業)を介在させていない。これは、最終販売価格の問題も当然考慮してのことではあるが、消費者からの「声」をより身近に受け止めていきたいという気持ちからでもある。
消費者からの支持を得た平飼い方式は、その後、取引先から他店への紹介や推薦等もあり段階的に規模拡大を図っていくことができた。そして、現在の鶏舎用地を造成し、全国でもトップクラスの平飼養鶏経営となることができた。
このことにより、農業を目指す若者やその家族からの理解も得られるようになってきた。
農業(畜産)が持つマイナーなイメージを払拭することは、一朝一夕にはできなかった。新規社員を獲得するために、広く門戸を開いてはいたものの、「田舎の鶏屋さん」への応募は一般企業のそれに比較すると、桁違いに少ない時代があった。自社の経営への取り組みを理解してもらい、将来の展望に共鳴してもらうには、社長自らが就職希望者と語ることが必要だった。
自社への就職が決定してからも、同様のイメージを持つ家族に対しての説明・説得が必要なこともあった。 しかし、「畜産で社員共々、メシを食えるようにしていきたい。」という熱い想いが通じると、新規の「就農者」となる若者も徐々に増えてきた。平成20年度に三重県畜産協会が開催した「畜産経営管理技術優良事例発表会では、従業員の一人が「畜産業に就職した私」をテーマに発表にも臨んだ。
社長が日々思っていることは、『社員から「私も社長になりたい。」と思われたくない。』ということである。社長は社員以上に働き、社員以上に努力をしていなければ、社員から支持されなくなるという苦しい立場であることを知ってもらいたいのである。
(2)環境に配慮できる経営
会社のモットーは「感謝と夢」である。現在の鶏舎建設に当たり、何よりも優先していったことは、環境への配慮であった。畜産といえば悪臭や水質汚染といった環境汚染により近在住民から苦情がでることも多くなってきていたが、先輩の養鶏経営者からの教えもこの点に充分に配慮する必要があるというものであった。
結果として、環境対策への配意の証として平成13年9月には、環境マネージメントシステムISO14001の認証を取得することができた。畜産農場としての取得は、現在、全国でも数少ない先進的な事例である。(平飼い養鶏では全国初の事例である。)
(3)畜産を身近に感じてもらいたい
平飼いを始めた頃から、いわゆる「展示鶏舎」を併設した。子供たちを初めとして、消費者の皆さんも、家畜(当事例の場合、鶏)に接した経験がほとんどないといった時代になってきている。肩肘張った展示鶏舎ではなく、だれでもが鶏に触れられるような場所を提供したいという思いで、鶏舎敷地内に展示鶏舎やふれあいの場を設けた。
しかし、鳥インフルエンザ発生以降は、展示鶏舎や鶏舎全体を防鳥ネットで覆うなどの対策を行い、お客様や来園者に会社の安全対策を見てもらい安心を感じてもらえるように早期に堅実な対策を講じた。
平飼い鶏舎が建ち並ぶ鶏舎敷地に隣接して自社製品の販売を取り扱う小売店「山の駅よって亭」を建設し、これに隣接させる形で鶏のミニ動物園的な施設やアスレチック遊具を配した遊歩道も整備した。
3.経営活動の内容
(1)労働力の構成
区分 |
続柄 |
年齢 |
農業従事日数
うち畜産部門 |
年間
総労働時間 |
労働
単価 |
備 考
(作業分担等) |
構成員 |
本人 |
55 |
276 |
276 |
552 |
- |
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父 |
86 |
|
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|
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母 |
79 |
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計 |
|
276 |
276 |
552 |
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従業員 |
農場 |
8人 |
2,016 |
2,016 |
15,120 |
|
鶏卵生産 |
GPセンター |
12人 |
3,312 |
3,312 |
24,840 |
|
パッキング |
小売 |
8人 |
1,440 |
1,440 |
10,080 |
|
山の駅よって亭 |
営業 |
3人 |
828 |
828 |
6,624 |
|
販売 |
事務 |
2人 |
552 |
552 |
4416 |
|
事務 |
計 |
|
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臨時雇 |
な し |
|
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労働力
合 計 |
34人 |
8,424日 |
8,424日 |
61,632時間 |
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(2)収入等の状況
区分 |
種 類
品目名 |
作付面積
飼養頭数 |
販売量 |
販売額
収入額 |
収 入
構成比 |
農業収入 |
畜産 |
成鶏 |
80,000羽 |
1,400t |
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|
育成鶏 |
11,500羽 |
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加工・販売
部門収入 |
GPセンター |
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1,344t |
659,700千円 |
95% |
農外収入 |
小売部門(よって亭) |
|
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35,120千円 |
5% |
合計 |
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694,820千円 |
100% |
(3)土地所有と利用状況
区分 |
実面積
うち借地 |
畜産利用地
面 積 |
備 考 |
個別利用地 |
耕地 |
田 |
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畑 |
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樹園地 |
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計 |
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耕地以外 |
牧草地 |
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野草地 |
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計 |
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畜舎・運動場 |
490 |
340 |
490 |
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その他 |
山林 |
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原野 |
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計 |
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共同利用地 |
. |
. |
. |
. |
表中「その他(山林部分等)」は、同敷地を取り巻く山林部分であり、ここに遊歩道や遊具が設置されている。
(4)家畜の飼養・出荷状況
品 種
区 分 |
成 鶏 |
育成鶏 |
平均 |
80,000 |
11,500 |
(5)施設等の所有・利用状況
種 類 |
構 造
資 材
形式能力 |
棟 数
面積数量
台 数 |
取 得 |
所 有
区 分 |
備 考
(利用状況等) |
年 |
金額(円) |
畜 舎 |
鶏舎3号舎
鶏舎4号舎
鶏舎5号舎
鶏舎6号舎
鶏舎7号舎
鶏舎2号舎
鶏舎1号舎
鶏舎8号舎 |
全棟共、木造、屋根はガルバニウム鋼板製畜産用資材 |
1,935.5平方m
1,935.5平方m
1,935.5平方m
1,935.5平方m
1,935.5平方m
1,935.5平方m
1,935.5平方m
1,935.5平方m |
H11
H11
H11
H11
H12
H12
H12
H14 |
18,861,152
17,341,558
21,781,620
21,093,382
21,393,810
22,432,191
20,314,762
21,986,095 |
会社
会社
会社
会社
会社
会社
会社
会社 |
育成用
育成用
|
施 設 |
GPセンター
よって亭 |
|
|
H12
H13 |
|
個人
個人 |
賃貸物件
賃貸物件 |
機 械 |
(鶏舎内機器類集卵機械他)
3号舎用機器
4号舎用機器
5号舎用機器
6号舎用機器
7号舎用機器
2号舎用機器
1号舎用機器
8号舎用機器
主制御盤
水浄化装置 |
|
一式
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H11 H11 H11 H11 H12 H12 H12 H14 H11 H11 |
19,763,572
20,108,677
30,969,731
28,291,776
17,964,763
19,554,953
19,481,430
リース物件
2,000,000
4,500,000 |
会社
会社
会社
会社
会社
会社
会社
会社
会社 |
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(6)経営の推移
年次 |
作物構成 |
羽数 |
経営及び活動の推移 |
S25 |
飼料、肥料の卸・小売業 |
・ |
父が飼料、肥料の卸・小売業を創業 |
S41 |
・ |
有限会社地主共和商会設立 |
S52 |
・ |
本人、地主共和商会へ入社 |
S53 |
・ |
鶏卵の取り扱いを開始 |
H元 |
平飼養鶏 |
3,000 |
養鶏業を開始 |
H2 |
・ |
株式会社に組織変更(資本金10,000千円) |
H4 |
15,000 |
増羽、GPセンターにオートパッカー導入 |
H7 |
・ |
有精美容卵コケコッコー共和国開設 |
H11 |
30,000 |
現在地へ新農場(平飼鶏舎4棟)を建設 |
H12・ |
39,800 |
鶏舎7号建設、平飼鶏舎からインライン方式によるGPセンターを建設 |
育成用鶏舎2棟建設(20,000羽) |
H13 |
・・ |
コケコッコー共和国に売店「山の駅よって亭」をオープン |
平飼採卵鶏舎として全国初の環境マネージメントシステムISO14001認証取得 |
H14 |
49,000 |
8号鶏舎建設、39,800羽から49,950羽に増羽 |
H18 |
・ |
密閉式コンポスト設置 |
H20 |
80,000 |
みえの安心食材表示制度の認定を受ける |
4.家畜排せつ物処理・利用方法と環境保全対策
(1)家畜排せつ物の処理方法
1 固形分の処理(堆肥化処理等)
平飼鶏舎の特徴のひとつとして、鶏が出した床の鶏糞を自らの脚でかき混ぜることにより、鶏の在舎中に自然発酵させることができることにある。また、鶏舎の中央部分に設置した糞乾設備から送風することにより、鶏糞は湿気を含まず自然発酵する。
鶏舎のローテーションは概ね500日間隔であり、群単位(鶏舎単位)で更新・廃用するため、空舎となった後、特注の搬出機具を付けたショベルローダにより、10日程度をかけて鶏糞を舎外へ搬出し、大型コンポに投入し、約5日間をかけて完全発酵堆肥とする。
堆肥利用については、需要期には、鶏舎から搬出すると同時に近在の農家が引き取りにくるため、直にトラックに積み込み引き取られていく。非需要期には、コンポから一旦製品ストック倉庫へ搬入し、その後、引き取られていく。
なお、鶏糞は近隣市町の茶生産農家を主とする耕種農家に無償譲渡される。対象となる農家は約800戸が把握・登録されており、これらの農家に対して鶏糞搬出時期を連絡するようにしている。
2 液体(尿・汚水)の処理
家畜排せつ物としての汚水はないが、鶏舎洗浄時の汚水が出る。これについての処理は次のとおりである。
空舎となった鶏舎は、水で洗浄した後、消毒する。この際に出る汚水は、鶏舎出口近くに埋設された管を通り、4基からなる浄化槽で曝気処理した後、貯留池に移し、さらに曝気を繰り返した後、放流する。
GPセンターで使用される卵の洗浄水は、薬品を使用せず、アルカリ水及び酸性水を使用している。共に使用後の水は中和された後、放流されるため自然環境に影響を及ぼすことはない。
(2)家畜排せつ物の利活用
[1]固形分
内 容 |
割合(%) |
品質等(堆肥化に要する期間等) |
販 売 |
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交 換 |
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無償譲渡 |
100% |
鶏舎では、約500日間鶏糞が堆積されることになるが、この間に、鶏が自ら鶏糞を攪拌することにより自然発酵することになる。鶏舎から搬出する際には、ほとんど臭いもない状態で堆肥化される。 |
自家利用 |
|
|
その他 |
|
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[2]液体分
内 容 |
割合(%) |
浄化の程度等 |
土地還元 |
|
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放 流 |
100% |
県環境基準に基づいている。 |
洗浄水 |
|
|
その他 |
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(3)処理・利用のフロー図
鶏糞の場合(無償譲渡)

鶏舎洗浄水の場合(放流)

(4)評価と課題
1 処理・利活用に関する評価
当事例の環境対策については、環境マネジメントシステムISO14001の認証取得という事実からも判断できるように、鶏糞の処理、汚水の処理等については、万全の対策を取っている。
三重県では茶の生産が盛んであるが、当農場の近隣市町村は、県内でも茶生産の盛んな地域であり、鶏糞の需要が多い。こういった地域の耕種農家へ無償で堆肥を提供することにより、資源循環型農業を実践していることは大いに評価できる。
当農場は、新たに山林を開発して造成した土地であり、鶏舎敷地周囲に住居等はないが、経営主は悪臭問題等が発生しないように細心の注意を払っている。なお、前述したように、平飼鶏舎の特徴として、鶏が床の鶏糞を自ら攪拌することにより、鶏糞が発酵し、鶏舎内に不快な臭いは発生していない。また、平成18年度に整備した密閉式コンポストにより環境対策はさらに高度なものになった。
環境マネジメントシステムISO14001の認証並びに継続のためには、鶏糞処理等はもちろんのことながら、事業所内の節電を初めとする省エネ対策、ダンボールの有効利用などの資源対策等取り組まなければならない。このためには定期的にあるいは部署別に開かれる環境についての社員教育も行われ、周知徹底されている様子が伺われる。
敷地内には、直販店もあるが、一般消費者に対しても掲示板等により環境の維持のための協力を訴えている。
2 課題
当事例の環境対策への取り組みは、ふん処理対策も事業所内の省資源化についても、最高水準の取り組み事例であると高く評価したい。
ISO認証の取得が最終目的ではなく、ひとつの通過点であることは言うまでもなく、社長を筆頭に社員全員が一丸となって取り組んでいる姿勢が伺われる。
今後はこのレベルを決して下げることなく、維持・発展していくことを目標としてもらいたい。
そして、ISOの認証の取得や継続についての先進的な事例として、県内の同業者等の模範となることが重要であると思われる。
(5)畜舎周辺の環境美化に関する取り組み
1 鶏舎内
平飼鶏舎の飼育では、鶏糞が湿気を含まずに常に乾燥した状態にあるため、全くといっていいほど、臭気の発生はない。
2 鶏舎水洗後の汚水処理
飼育鶏は鶏舎毎(群毎)のオールイン・オールアウト方式のため、廃用した後に鶏舎内を全部水洗することになる。農場から発生する汚水は、この洗浄後の水だけであり、この汚水は、鶏舎側面に設置された配水管を通じて4基の浄化槽に送られ、曝気を繰り返して浄化された後、溜池に送られる。ここでさらに曝気された水が一般河川に放流されることになる。
3 GPセンターで使用する卵の洗浄水
卵の洗浄には薬品を使用せず、電気分解により強酸及び強アルカリの水を使用するため、洗浄後は中和され、普通の水となって排水され、周辺の水質への影響はない。
4 敷地内の美化
敷地内は、従来の山林の姿を活かし、さらに植樹し、花木を植え、環境美化に努めている。
5 ISO認証の事業所としての認識
ISO14001を取得したことから、社員への環境に関する教育や具体的な実施について、明確な目標数値を掲げ、これを実践している。実践の証として求められる「記録」については、電気の消費量、鶏糞の搬出、ごみの分別、焼却炉の利用実績等多岐にわたる記録を残し、全社を挙げて取り組んでいる様子が伺われる。
また、よって亭に来店する一般客に対しても、ISO取得の事業所であることを明示し、環境の維持に協力するよう訴えている。
5.後継者確保・人材育成等と経営の継続性に関する取り組み
(1)社員の和の育成
社長の社員に対する朝の挨拶は、社員に一人一人に握手を求めることから始まる。名実共に「触れ合い」を大切にしている。社員全員の交流のために、毎月恒例の行事として「食事会」と「誕生会」を開催している。食事会では、社長自らが腕を振るい味噌汁を作ることが恒例となり、好評を得ている。食事会は全社員が一同に会するもので、該当者があると誕生会と称して、「その社員の家族のために」花束や牛肉を贈ることにしている。この会社にとって、働く者は本人であるが、家族の支えがあってこそ会社で働けるのであるという考えから、家族に感謝の意を表すために、このような触れ合いを続けている。
(2)研修等への参加
現在の場長は、大学で畜産を学習した者ではないが、採用に当たっては、社員を統括できる能力を買い採用に踏み切った。同社員は、飼料メーカーの指導研修を習得し、現在では、近在の養鶏家からも要請がある程の技術者として活躍している。このように必要と認める研修は積極的に受けさせ、あるいは社員から要望のある研修についても受講を勧め、各人の能力向上に積極的に取り組んでいる。
(3)新しい取り組みとしての部門区分
当事例は、鶏卵の生産、販売、卸、飼料の販売と多岐に及ぶ企業であり、従来は決算も全社を総合する形で行ってきたが、平成15年から会社を7部門に区分し、それぞれの部門ごとに収支を把握できる体制となった。このことにより社員の中からは、改めて費用の再検討をする者や、関係部署内の協調体制を再確認するなどの具体的な動きが現われてきている。
(4)新入社員の家族の声
新入社員については、広く門戸を開いてきたものの、一次産業であるということで、一般企業のような応募数がないことは事実であった。一例をあげるならば、大学卒業者を雇用するとその両親は、「聞いたこともない地方の農場」に不安を抱くことが、少なからずあったようであるが、両親を農場に招き、実際に現場を見学していただき、社長が会社の方針や社員との交流、農業についてのビジョン等について語ることで本人以上の納得を得てきたようである。
6.地域農業や地域社会との強調・融和についての活動内容
(1)基本的な姿勢
養鶏を通じて親交のある同業者から教わってきたことは、「地域の皆さんからの支持がなければ養鶏を継続することなどできない。ましてや環境汚染を起こすような経営では、維持することは、論外である。」という考えである。現農場を計画・建設するに当たってもこのことは念頭においていた。
ISOの取得は新農場の建設時には計画していたものではなかったが、環境への心配りを優先してきた結果として、取得が可能ではないかとの勧めにより申請に踏み切った。しかしISO取得は最終目的ではなく、これにより会社の姿勢を理解していただくこと、商品に自信をもって営業活動に推進できること、そして何よりも限りある資源を有効に利用することを目的としている。
(2)山の駅よって亭からの情報発信
家畜に触れ合う機会のほとんどない子供たちや一般消費者に、直接、鶏に手で触れることのできる場を提供している。
旧鶏舎の時から、こういった場を提供してきたが、新農場の一角に設けられたミニ動物園的な施設には、珍しい鶏や、手で直接触れられる鶏が飼育されている。
同施設を取り巻く土地は、敷地造成時に自然の山をできる限りそのまま残し、森林浴を楽しめるように遊歩道を整備した。遊歩道には、各種の木製遊具を配置し、自由に遊べるようになっている。また、当地は古くは奈良時代に奈良東大寺大仏の建立のため使用された水銀を産出した土地であり、遊歩道の一角には、水銀採掘後の遺産が残されている。
直販店「山の駅よって亭」は、純和風の民家を再現した施設で、当農場のオリジナルブランド「有精美容卵」を初めとし、鶏肉やそぼろ、卵スープ、卵せんべいなどの加工品、その他の健康食品などを販売している。
また、鶏肉の焼肉や卵プリンも定番の人気の商品となっている。
店内では、農場内の鶏の様子やGPセンター等の内容をビデオで流し、養鶏への理解を深めてもらおうとしている。
こういった事業展開の内容をさらに広く知ってもらうため、県内、東海地域、関西地域を放映範囲とするテレビ局でもCMを放映したり、ホームページを通じて自社のPRにも取り組んでいる。
(3)地域の皆さんとの結びつき
近隣市町の耕種農家の皆さんとは、堆肥の無償譲渡という関係で約800戸の耕種農家と連携を取り、資源の循環を図っている。
また、近在の高校生の企業研修や養護施設の生徒らの研修も受け入れている。研修は各1日ではあるが、養鶏そのものを知ってもらうと共に、一次産業の大切さや会社のモットーである「感謝と夢」についても語っている。
生協グループや健康食品関連の視察については、実際に平飼鶏舎内部の視察も受け入れるなどの対応をして、平飼い養鶏への理解を深めている。
(4)養鶏業者としての意識
平成15年度には県養鶏協会の理事にも就き、県全体での衛生対策について検討したり行政との意見交換の場では積極的な姿勢で対応してきた。現在、鳥インフルエンザの問題がクローズアップされてきているが、自社農場では鶏舎に防鳥ネットを張り巡らすなど消費者に「安全」を理解してもらえるよう努めている。
また、養鶏協会会員の地域的な集まりを組織し、HACCPについても仲間と共に学習を深めている。
(5)安全食材の提供
三重県では、地産地消ネットワークみえと県が協働し、三重県産の農産物が消費者の安全安心志向に応えるための仕組みとして、「人と自然にやさしいみえの安心食材表示制度」が平成14年11月に構築された。この制度は、三重県内の生産者が環境に配慮した生産方法や食の安全・安心を確保する生産管理の実施にとりくみ、その生産履歴を積極的に公開することにより消費者が安心して購入できるようにするもので、
現在、米、野菜、果物、きのこ、鶏卵が認定対象品目となっている。
当経営では、この制度にも準備段階から積極的な姿勢で認定を目指し、平成20年5月に農場部門、GP部門の2部門で認定された。
7.今後の目指す方向と課題
「感謝と夢」が社長のモットーである。安全で安心して食べてもらえる卵の生産を目指して常に新しい夢にチャレンジしている。 畜産業界全体に持たれているいわゆる3Kの悪いイメージの殻を破り、清潔で明るい環境の中で仕事ができる職場、特に若者が「夢と希望」を持てる魅力のある会社にしていきたいと考えている。そのためには、社員が希望を持て、仕事に見合う収入(所得)が確保できるように経営努力をしたいと考えている。
最近は、特に環境問題が注目されるようになってきていることから、これからの企業のあり方としては、ビジネス上の観点からも、積極的に環境問題に対する取り組みが必要となってくるものと思われる。
平成13年9月にISO14001を取得したことにより、地球温暖化防止に努め、環境にやさしく地域に密着した地元の人々に融和できる企業の道を歩んでいる。
平成19年からの飼料高騰は採卵鶏経営だけでなく畜産業界にとって驚異的な出来事であった。今後もどのよな状況に追い込まれるのか不透明であるが、決して安穏としてはいられないと感じている。
当経営では、一番影響を受けやすい飼料について研究も兼ねながら独自の取り組みを進めている。
傘下の農場では「飼料米の給与」によるオリジナルブランドの鶏卵販売に取り組んでいる。また、おからやしょう油粕といった食品残さにも注目し、給与の結果をデータとして蓄積してきている。このような取り組みは会社の体質強化といった一面もあるが、日本の養鶏業界を維持発展させていることが、すなわち消費者の皆さんの求める社会を作っていくことに通じるのだという大局的な視野を持った社長の経営理念によるものである。
8.事例の特徴や活動を示す写真

地主隆弘社長 |
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三重県のほぼ中央部、多気町 |

農場の全景(画面右は勢和多気IC) |
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高速道路に面して建つ大看板 |

平飼い鶏舎 |
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綺麗な鶏舎内。 |

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鳥インフルエンザ対策として、安全の確保と安心の提供 |
 屋外で日光浴をする鶏 |
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 平飼い鶏舎内部 |

GPセンターの様子(モニターで卵を監視) |
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GPセンターの様子(オートパッカー) |

自社内にある検査室 |
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社員の皆さん。 |

月1回の昼食会の準備 |
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誕生月の社員に松阪牛をプレゼント |

毎朝従業員全員に、握手して挨拶 |
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平成13年ISO14001取得 |

飼料米を給与した新しいブランド「おこめ美人」 |

直売店、山の駅「よって亭」 |
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人気メニュー たまごかけごはん
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展示鶏舎 |
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よって亭店内 |
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品揃えも豊富 |

焼肉も食べられます |
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新鮮な鶏肉も販売 |

ブランド「平飼い天然肉」 |
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子供たちの笑顔 |
 よって亭の遊戯施設 |
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会社のモットーは、「感謝と夢」 |
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