肉用牛
繁殖
経営

畜産ルネッサンスを目指して

地域を柱につなぐ親子二代のバトン

豊田 兵一 夏代

 

1.地域の概況

 三重県亀山市は、県の北中部に位置し、古くは東海道五十三次の宿場町として繁栄した街である。明治に入ってからは国鉄関西線、参宮線の鉄道拠点として、また、国道1号線や東名阪高速自動車道が整備され、名古屋までは40分程度の時間距離になった。現在、第二名神高速道路の工事が進行中で、今後は更に交通の便は良くなるものと思われる。
 交通の便が良いことから、工場の進出も多く、大手メーカーの液晶生産工場も建設され、県のクリスタルバレー構想の拠点として産業の集積を図り、先端工業都市としての成長をめざしている。
 農業では、米を中心とした農業の他に気候風土を活かしたお茶の栽培が盛んである。畜産農家戸数は、各畜種とも少ないものの肉用牛の1戸当たり平均飼養頭数は、217頭であり、県平均の103頭を大きく上回っている。

2.経営管理技術や特色ある取り組み

経営実績とそれを支える経営管理技術、
特色ある取り組み内容とその成果等
左記の活動に取り組んだ動機、背景、
経過やその取り組みを支えた外部からの支援等
1 高級肉生産県における交雑種、乳用種の肥育

三重県は、松阪牛、伊賀牛に代表される黒毛和種雌肥育が行われている地域であり、高級肉生産に注目が集まる地域であるが、敢えて大衆肉志向の肉用牛肥育に取り組んだ。

 出荷する市場では、既に「豊田の牛」として高い評価が定着している。


 肉用牛肥育経営では、飼育期間が長期にわたることから、特に肥育期間の長い形態では資金の回転が遅く、事故発生によるリスクも大きい。

 当事例では、これら肉用牛経営特有の危険を回避する意味においても、創業当初から大衆肉生産の経営を計画し、実践した。
2 無理のない増頭の経緯
 後継者の就農意志が、早期より明確であったため、これに照準をあわせるように、経営主は、無理のない増頭を手がけ、別表の経営の推移にあるような規模拡大を行ってきた。

 牛舎建築に当たっても、増頭計画に合った増改築を繰り返し、無理のない投資をしてきた。また牛舎建築に当たっては自家労力により設計施工に取組み経費の節減に努めてきた。

 後継者が就農してからも、一気に増頭する手法は取らず、堅実な計画のもとで実施されている。
3 コスト管理
 高級肉志向の肥育形態では、事故等によるリスクが大きく、所得は販売単価に大きく影響されることから、安定した経営を目指すため、交雑種、乳用種の肥育に取り組んだ訳であるが、これに付随する飼育管理、経営管理技術にも秀でたものがある。

 コスト管理には、正確な牛の飼育データが必要であるが、当初、群管理で把握していた牛のデータも、コンピュータの活用により個体管理に対応できるようになった。
 
 また、後継者夫婦は、経理部門、生産部門共にコンピュータで管理する能力を有し、きめ細かな経営の把握と検討に応えている。 飼料は濃厚飼料粗飼料ともにすべて購入に頼っているが、現在のコストなら収支に問題はないと考えている。

 飼料については、交雑種用には、指定配合を利用している。また、粗飼料の内、経営内で使用する稲わらのすべてを、県内で収集されたものを年間契約で購入している。
4 地域農業者や地域住民との濃密な交流
 後継者の就農以来、特に顕著になってきた特徴である。

 堆肥を通じての交流が基本となり、畜産への理解を得ながら、積極的に安全・安心を前面に出し、かつ受け入れられる経営となっている。

 詳細については、本推薦調書「7地域農業や地域社会との協調・融和についての活動内容」に記載するが、一般の個人経営では対応範囲を超えると思われるほどの内容の広がりと強い連携があり、これを支える後継者の熱意が感じられる。

 地域に根付いた経営でありたいという後継者の就農以来の考えが実現している。

 さらに、消費者との絆の重要性を感じたのは平成13年のBSE問題の発生である。市場販売価格が低迷する中で、従来から交流のあった堆肥の取引関係者にダイレクトメールを出したところ、安全と安心に理解を得られ、牛肉の直販が高い評価を受け、信頼をつかんだ。
5 導入出荷
 乳用種もと牛の導入については、平成12年頃までは、ヌレ子を導入したり8ヶ月齢程度のものを導入したりといった形態を取っていた。これらの導入後の管理については、やはり、事故率も高く経営にとってマイナスでもあった。

 導入は、岐阜市場からのものが最も多く6割から7割を占める。

 大型トラックを導入したことから、もと牛のセリ頭数を事前に調査し、徳島市場や豊橋市場へ出向くことも容易になった。

 従来から導入直後の飼育管理には妻が従事し、女性ならではの細やかな観察と早期の対応で事故率の低減に当たるなど、飼育前半の大きな役割を担っていた。乳用種は、現在、概ね8ヶ月齢導入に揃え、スモール飼育のリスクを避けるようにした。

 しかし、現在でも導入した牛はすべて妻が3〜4ヶ月間第一牧場で飼育した後に、その後の肥育に引き継ぐことにしている。 肥育牛は、第二牧場の空き具合を見たうえで、移動することとなる。
6 堆肥の全量販売
 規模拡大する過程でいずれの経営でもふん尿の処理については、憂慮するところである。当事例もこのことについては例外ではないが、増頭段階にあって、現在の第二牧場敷地を確保し、早急に堆肥化施設を整備した。

 ブロア付の堆肥舎で攪拌され発酵した堆肥は、良質なものでありオリジナルブランド堆肥「ゆたか」として、その全量を販売している。

 現在の第二牧場は、当初、堆肥化施設用地として廃業した酪農牛舎跡の土地を借用しているものである。

 良質な堆肥は経営活動から生産される副産物であるという高い認識から、全量を販売に当てている。対象は、耕種農家、家庭菜園など幅広い顧客層である。

 顧客名簿が3,000名を超えることから判断しても、販路の開拓等に費やしてきた努力が感じられる。


3.経営・生産の内容

(1)労働力の構成
平成16年7月現在
区分 続柄 年齢 農業従事日数
    うち畜産部門
年  間
総労働時間
労賃
単価
備  考
(作業分担等)
家族 本人 57 330 330 2,640 1,200 経営全般
52 320 320 1,920 1,200 肥育前期
(導入直後)部門
長男 29 340 340 3,060 1,200 導入出荷、肥育全般
長男妻 30 300 300 1,500 1,200 堆肥小売、経理
3           
0           
常雇 男性 51 250 250 2,250   雇用労賃
常雇、臨時の総額で
6,742,550円
男性 69 300 300 1,500  
女性 74 340 340 340  
臨時雇 のべ人数 456人・日
5時間/日×18日/月×12ヶ月
4時間/日×20日/月×12ヶ月
            実人数2人
2,040  
労働力
合計
9人 2,636日 2,636日 15,250時間    

表中:年齢は平成16年7月現在。労働時間等は、平成15年1月〜12月

経営主の父の労働:敢えて労働力として本表には表記していないが、経営主の父(93歳)もふれあい農園の維持管理や牛舎周辺の美化(花の手入れなど)に、手を貸している。
 また、園児たちが収穫を楽しむイチゴやトウモロコシ、サツマイモなどの日々の肥培管理にも労力を注いでいる。

(2)収入等の状況
区 分 種 類
品目名
作付面積
飼養頭数
販売量 販売額・
収入額
収 入
構成比
農業生産部門収入 畜産 肉用牛 926.4頭 441頭 154,723,260円 92.6%
堆肥販売      9,160,051円 5.5%
牛肉直販     3,166,570円 1.9%
     
耕種      
     
林産      
     
加工・販売
部門収入
     
     
     
     
農 外
収 入
     
     
合 計       167,049,881円 100.0%


(3)土地所有と利用状況
区 分 実面積 うち借地 うち畜産利用地面積 備 考
個別利用地 耕 地 126a a a 耕作外注
181a a a 耕作外注
樹園地 a a a  
307a a a  
耕地以外 牧草地 a a a  
野草地 a a a  
   a a a  
a a a  
畜舎・運動場 300a 100a 300a 第二牧場は借地
その他 山 林 182a a a  
原 野 28a a a  
310a a a  
共同利用地 a a a 利用戸数:


(4)家畜の飼養状況
単位:頭
品種・区分 交雑種 乳用種 黒毛和種雌 乳用種経産牛 計、平均
期 首 386 391 21 3 801
期 末 531 438 2 1 972
平 均 484.1 423.6 16.5 2.2 926.4
年間出荷
頭数
101 321 17 2 441


(5)施設等の所有・利用状況
  所有物件
種 類 棟数
面積数量
台数
取 得 所 有
区 分
構  造
資  材
形式能力
備  考
(利用状況等)
金額(円)
畜 舎 牛舎第二牧場

牛舎第一牧場
第二牛舎改造
第二牛舎増築
面積は牛舎全体で15,000平方m。順次増設した関係から棟数は把握しにくい。 H9

H10
H12
H13
26,415,578

8,920,979
2,006,203
14,619,228
個人



鉄骨
ストレート


牛舎はS60年頃から順次取得した。
本表に掲載した物件は、償却対象物件のみ。
施設 車庫兼倉庫   H12 4,712,947
個人 鉄骨
ストレート
 
機   械 ハカリ
洗浄機
自動給餌機
自動給餌機
自動給餌機
リフト
トラック
ショベルローダ
ダンプ
ユンボ
堆肥集詰機
堆肥袋詰機
ダンプ
ショベルローダ
ショベルローダ
リフト
1台
1台
一式
一式
一式
1台
1台
1台
1台
1台
1台
1台
1台
1台
1台
1台
H10
H12
H13
H15
H15
H9
H15
H12
H12
H12
H12
H14
H12
H12
H13
H15
350,000
414,285
8,192,380
1,047,610
4,876,095
1,339,000
12,820,000
1,468,897
1,991,102
1,300,000
328,650
502,950
1,911,000
300,000
900,000
1,000,000
個人














1t用

自動給餌機は、ほぼ全頭に給餌できる能力を有する。
20t積み
 
 
 
 
 
 
 
中古
中古
中古
 
 
中古
中古
中古
中古


(6)自給飼料の生産と利用状況

   該当なし


4.経営・活動の推移

年次 作目構成 頭(羽)数 経営および活動の推移
S46年
S48年
S50年
S55年
S60年
H元年
H6年
H8年
 
H9年
 
 
 
H10年
 
 
H11年
 
 
 
 
 
H12年
 
 
H13年
 
 
 
 

H14年
 
 
H15年
肉用牛
5頭
20頭
100頭
300頭
500頭
600頭
 
 
 
 
 
 
 
860頭
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
  
 

 
980頭
本人経営開始
 
おが粉倉庫建築
子牛(ヌレ子)育成用牛舎建築、事務所建築
電柱牛舎建築
堆肥舎建築
現在の第二牧場敷地に堆肥舎建設
同上堆肥舎増築
 
長男就農(2週間アメリカ研修)
堆肥袋詰、堆肥小売開始
第二牧場完成:経営開始資金で、もと牛導入
 
堆肥散布機購入
長男結婚
 
第一牧場牛舎改造
ゆたか農園・ふれあい牧場開設
(有)フラワー(堆肥部門)設立、堆肥製造販売部門を畜産部門から独立させた。
後継者が地元新聞に連載記事を掲載「まきば通信」

第二牧場第二牛舎完成
第1回「楽農祭」開催
 
第二牧場第三牛舎完成
増頭と同時に飼料を指定配合に変更
第二牧場全頭分、第一牧場1/2分に自動給餌機導入
BSE発生、飼養頭数を削減
第2回「楽農祭」開催

肉の直売開始
第3回「楽農祭」開催
 
第4回「楽農祭」開催
全頭に自動給餌機施設完備



5.家畜排せつ物処理・利用方法と環境保全対策

(1)家畜排せつ物の処理方法

混合処理
(ア) 牛房へおが粉を投入する。この時、戻し堆肥を20%〜30%混ぜる。

(イ) F1と乳用種で日数が異なるが、半月〜1ヶ月で厩肥を発酵槽へ搬出する。
    第一牧場の厩肥は、第二牧場の堆肥処理施設へ運搬する。

(ウ) 発酵促進のために、半年以上ショベルローダで切り返す。堆肥舎の床面はブロア付。
    頻度は6回〜10回/半年。

(エ) 野菜、お茶、サツキ等の耕種農家へは、3〜4ヶ月(切り替えし回数4〜5回)切り返した堆肥をバラの状態で販売する。マニアスプレッダ散布作業付で9,000円/2t車。配達の場合は、12,000円/2tダンプ
    堆肥量の80%がバラ販売。金額では50%である。

(オ) 一般の消費者または小口の農家利用としては、二次発酵させたものを袋詰にする。20リットルものは、主に一般消費者向けとして、35リットルのものは、主に農家向けとして販売する。この販売量は全体の20%であるが、販売金額としては、50%を占める。袋詰めされた堆肥は第二牧場から第一牧場にある堆肥販売所に運搬し、ここで販売する。

(2)家畜排せつ物の利活用

内 容 割合(%) 品質等(堆肥化に要する期間等)
販 売 100 耕種農家向け4ヶ月程度、一般向け6ヶ月程度
交 換     
無償譲渡    
自家利用    
その他 0 ふれあい農園で無料で利用される堆肥もあるが、全体量から見るとゼロに等しい。


(3)処理・利用のフロー図

   フロー図


(4)評価と課題

1 処理・利活用に関する評価

 地域の特性を活かし、耕種農家と連携を取り、野菜、お茶、サツキ農家へ販売している。耕種サイドから要望があれば、マニアによる散布にも対応できる体制である。
 過去には、サツキ農家を主な対象としていたため、景気の低迷から公共工事等が減少する中で、販売が思うようにできない時期もあったが、口コミや積極的な販売戦略(楽農祭等での特販等)も効を奏し、順次、堆肥のお客様が固定化できるようになった。
 また、ふれあい農園では、堆肥が無料で利用できることも、堆肥利用そのものへの理解が深まり、これも堆肥の固定客を増やすことができる要因となった。
 袋詰も20リットル、35リットルに区分し、小口の耕種農家への対応、一般の家庭菜園用等に利用しやすいように気配りしている。
 固定客の名簿は耕種農家・一般消費者等を含め現在3,000名を越える規模となった。

2 課 題

 耕種農家の利用が基本となることから、季節によっては、堆肥の需要に供給が追いつかない時期ができたり、その逆の時期があることは避けられない。このことから、堆肥の収容能力(収容面積)には、余裕を持たざるを得ない。
 季節による需給バランスの是正のためには、新しい販路として、露地物作物ばかりでなく、ハウス園芸作物に目をむけさらに固定客をつかむ努力をしている。


(5)畜舎周辺の環境美化に関する取り組み

 第二牧場は、第一牧場(亀山市)から約10km強離れた隣の市(鈴鹿市)にある。この牧場は、水田と茶畑に囲まれた環境の中にあり、周囲の景観そのものに溶け込んでいる。
 第一牧場は、市街地からは、約4km程離れた丘陵地域で、県道に面しており混住化も進みつつあり、県道を挟んだ反対側には、マンションも建っている。
 こういった環境であることから、牛舎の臭気等で環境問題が発生しないように、牛床は天井扇による送風や早めのおが粉投入などにより、乾燥を保つように工夫と努力をしている結果、牛舎内の臭気対策については問題点はない。
 牛舎と県道の間には、概ね300坪の家庭菜園やロバやポニー・ヤギといった小動物が飼われているミニ動物園があり、安らぎを感じられる空間を提供している。
 また、農場入り口や道路に面する場所には、パンジーを植えたりして景観の保持に当たっている。花が咲く時期には、カメラマンの被写体になっている。


6.後継者確保・人材育成等と経営の継続性に関する取り組み

 後継者は、現在29歳で就農以来、既に8年が経過している。中学生の頃から後継者の道を歩むことを決意し、畜産を学ぶために高校・大学と北海道の酪農学園に進んだ。
 畜産への道を目指す者が集まった酪農学園での学習は、カルチャーショックとも言えるもので、現在の経営理念に大きく影響を与えたと言える。
 「地元に帰って畜産を始めるなら、『三重の豊田』と評価される経営をしたい、地元に根付いた畜産をしたい。」というこの二つが現在の経営理念である。
 経営者の妻は、「労働力の構成」で労働時間を示すように、年間家族労働時間9,120時間の21%に当たる1,920時間の労力となっている。その主な作業内容は、導入直後の牛の管理である。ヌレ子を導入していた頃から、導入直後の飼育管理の重要性を充分に認識し、女性の視点で細かい牛の観察や健康のための維持管理に当たってきた。導入月齢が大きくなったとはいえ、現在も導入直後から3〜4ヶ月間の飼育管理が重要であることに変わりはなく、飼育のポイントを任されている。
 後継者の妻は、現在3歳児、0歳児の育児に時間を費やさざるを得ない状況であるが、堆肥の小売販売や経理部門を任されている。


7.地域農業や地域社会との協調・融和についての活動内容

(1)地域の農業・畜産の仲間との交流


 県内でも当地域は、農業が盛んな地域であり、総体的に後継者も育っており、農業仲間での交流も活発である。豊田畜産では、昨年で4回目となった「楽農祭」を開催していることからも理解できるように、地域の農業者との連携も強い。「楽農祭」は独自で開催するものではあるが、これらの仲間も自らの作物を持ち寄り、販売に花を添えてくれている。
 この活動は、長男が所属する「大地の耕作人」というグループが基礎となっている。「大地の耕作人」は、平成14年度に本事業で推薦した養豚事例小林ファームも所属するグループで、定期的にいわゆる青空市場を開催し、地元からの支持を受けている。豊田畜産の場合は、肉用牛経営ということから、この定期的な市場での直販はしていないが、農業に対する志は意気投合するところもあり、このグループ活動に参画している。

(2)地域循環型農業の確立


 堆肥を通じて、地域の耕種農家や一般家庭との交流が深い。
 長男の就農以前には、地域においてサツキが盛んに栽培されていたが、公共事業の減少など景気の低迷からその需要が減少するのと平行して、堆肥の需要も落ち込んでいった。お茶の生産地域への大口需要を開拓すると共に、販売先(利用先)を家庭菜園やガーデニングといった個人消費に目を向け袋詰め堆肥を提供できるようにした。オリジナル堆肥「ゆたか」の誕生である。
 こういった堆肥の顧客にはダイレクトメールを出すなどの努力を怠らず、顧客数は3,000人を上回るものとなっている。
 耕種農家に対しては、マニアによる堆肥散布にも応じている。
 さらに堆肥部門を発展させる手法をして、堆肥製造販売部門を畜産部門から独立させ有限会社を立ち上げ、事業化している。
(このことから、今回の事例推薦に当たっては、経理上、堆肥部門は別経営として把握するのが本来であるが、別途資料として添付したように、今回の推薦では、畜産部門と合体させた形で報告することとした。)

(3)牛舎隣接地に広がるふれあい農園


 堆肥を通じてもっと深く一般の人々と交流できないものかと考え実行したのが、長男の就農後に始めたふれあい農園である。牛舎に隣接する約300坪の土地を1区画5坪に区切り、一般の方々に有料で提供しているものである。月500円の使用料で、堆肥と水道は自由に使えるシステムになっている。現在は、全区画が利用されており、申し込みはあるものの順番待ちの状態である。
 また、これらの耕作者を対象に、年2回ではあるが、専門家による作物栽培についての現地研修会も開催している。

(4)ミニ牧場や牧場見学の受け入れ


 子どもたちにとって、最近の生活環境の中では、家畜や小動物に触れ合う機会がないことから、身近に畜産を感じてもらいたいという想いを持って、ヤギ、ヒツジ、ポニー、ロバなどに直接触れられるミニ牧場を開設し、無料で開放している。敷地内には、飼料タンクを加工したベンチや簡単な遊具も備え、ウィークエンドには賑わいを見せている。
 また、近くには小学校3校、中学校2校があることから、学習の一環として肉牛の飼育現場を見学したり、畜産についての話をしたりといったことにも応じている。

(5)消費者との交流とイベントの開催

 
 平成12年に当牧場独自の農業祭として、第1回「楽農祭」を開催した。毎年1回の開催でまだ歴史は浅いが、昨年度、第4回の開催に至った。このイベントでは、地域の農業者仲間らの地域の農産物の販売や牛肉の予約販売などで、終日賑わいを見せる。
 企画からダイレクトメールの発送等すべてが手づくりのイベントである。
 地場産品の販売だけでなく、昨年度は、クリスマスリースづくりの講習会を開催するなど、イベント内容に幅を持たせている。
 消費者とのつながりの重要性を痛感したのは、平成13年に発生したBSE騒動であった。この大きな壁を乗り越えるためには、牛の飼育方法や給与する飼料について正しい情報を提供し、理解してもらえば道は開けると信じ、知り合いの精肉店でパックを作ってもらい販売に結びつけることができた。それまで堆肥販売で交流のあった皆さんに対し、牛肉販売のダイレクトメールを出した。これに対する反響は予想以上に大きいものであった。

(6)後継者の畜産に対する想いを新聞へ寄稿


 平成11年10月から翌年3月までの期間に17回にわたり、地元新聞にコラムとして「まきば通信」を寄稿した。畜産について親しみをもってもらいたいという想いから、給与飼料、飼育方法、環境問題、堆肥の利用などについて、一般消費者にわかりやすい表現で執筆にあたった。


8.今後の目指す方向性と課題

 現在の経営規模に至るまでの経緯は上述してきたとおりであり、規模拡大も目標に達したと考えている。この規模から生み出される牛肉としての「量」は、満足できるものとなった。
 次に目指すのは「質」である。市場取引での評価は現状でも経営上の問題はないが、さらに一人でも多くの方から「豊田の牛肉はおいしい。」といった評価をもらいたいと考えているところである。
 しかし、こう言った目標を樹立し、実践していくには、旧態依然とした生産農家であってはならないと考えている。生産に多くの労力を注ぐ農業であっては、その後の発展には限りがあり、また、結果から得られる満足感・充実感にも限度があるように感じる。
 経営にとっての満足感・充実感とは、消費者からいただく精神的な面もあるが、事業主としては、やはり注いだ知識や労力、努力に値する適正な所得というものが必要であると思う。もと牛の選定、飼育技術、渉外能力、経営管理能力といった能力を身につけ、研鑽していくことが重要であると考えている。
 後継者も、「豊田ブランド」を確立し、一人でも多くの消費者に満足を提供していきたいと考えているが、やはり基本は経営の根幹部分を確固たるものにした上で、その後の展開にもっていくことが正攻法であると思う。


9.事例の特徴や活動を示す写真

豊田さんご家族   第一牧場とふれあい農園
経営主夫婦、長男夫婦とお孫さん2人
 
第一牧場とその前に広がる「ふれあい農園」
 
楽農祭の様子 見学
楽農祭に訪れた人々のようす 農産物販売中
 
第一牧場の見学におとずれた親子
 
ミニ牧場 第二牧場
ヤギやヒツジ、ポニーなどが飼われている
ミニ牧場
 
第二牧場の外観
(画面左の屋根が高い部分が堆肥処理スペース)
 
牛舎内 袋詰作業
第二牧場の牛舎内
(自動給餌機が設置されている)
 
堆肥の袋詰め作業 (機械へ堆肥を投入中)

 
マニア搭載トラック 堆肥販売所
耕種農家へ堆肥散布するためのマニアを搭載したトラック 第一牧場内にある堆肥販売所
袋詰めされた堆肥が積まれている