経営部門
養豚
経営
こだわりの豚肉生産・直売と
豚肉のトレーサビリティ
〜トレーサビリティの実践で
安全・安心を消費者に〜
有限会社大西畜産
大西 良和

1.地域の概況

 当事例のある津市久居(旧久居市)は、平成18年1月1日に旧津市を中心とした10市町村が合併し、新しい「津市」としてスタートした。県の中央部で県下最大の面積を占める名実共に県下一の市となった。交通の便に優れた高速道路沿いの地域には企業の立地も進んでいる。

 年平均気温は15.5度、年間降水量は1,650.3ミリと温暖な地域である。

 布引山脈を源に伊勢湾に注ぐ一級河川雲出川の中流から下流部一帯は、豊かな水に恵まれ肥沃な土地を育て、9,500戸の農家が水稲を中心にキャベツ等の野菜やナシ等の果樹を栽培している。専業農家戸数は、1,035戸、第一種兼業農家戸数は399戸、第二種兼業農家戸数は4,748戸となっている。

 農業産出額は、1,585千万円で、このうち畜産部門は、597千万円で38%を占めている。畜産は、肉牛、乳牛、豚、採卵鶏などが飼養され、法人経営による大規模経営もある。

 平成18年2月1日現在の調査によれば、県下の養豚農家戸数は70戸である。1戸当たりの平均飼養頭数は、1,860.0頭となり全国の同平均値1,233.3頭を大きく上回っている。

 また、当地域の特徴として、県内の1戸当たりの平均飼養頭羽数より大きいことがあげられる。

家畜の飼養状況                単位:戸、頭、千羽
区 分 乳用牛 肉用牛 採卵鶏 肉用鶏
県全体 飼養戸数 119 271 70 101 29
飼養頭羽数 9,020 28,700 130,200 4,931 873
1戸当たり 75.8 105.9 1,860.0 41.4  
津市 飼養戸数 13 21 8 9 4
飼養頭羽数 1,980 3,450 23,900 1,168 62
1戸当たり 152.3 164.3 2,987.5 117.8  
採卵鶏の数値は、種鶏のみの飼養を除いたもの
  

2.経営・生産の内容

(1)労働力の構成(平成19年6月現在)

区分 経営主との
続柄
年齢 農業従事日数(日) 部門または作業担当 備考
うち畜産部門
構成員 75       取締役
本人 48 340 340 生産管理全般、堆肥処理、
販路拡大
代表取締役
47 315 314 生産部門50%、販売部門50% 取締役
従業員 正職員
男性
53 300 300 週4.5日は販売部門、1.5日は生産部門
22 300 300 週2日は販売部門、4日は生産部門
長男 22 平成19年5月から就農(農場管理、販売企画に携わる)
臨時雇 のべ人日:下記参照(1.2人:2,200時間/年で換算)
臨時職員は女性3名。
女性:事務と加工、経理、楽天等の受注担当 週20時間×52週=1,040時間/年
女性:肉販売の企画(チラシ、ホームページ管理)担当 週24時間×52週=1,248時間/年
女性:スライス作業等加工担当:週8時間×52週=416時間/年
臨時雇用年間就業時間計 2,704時間

(2)過去5年間の生産活動の推移

  平成14年 平成15年 平成16年 平成17年 平成18年
畜産部門労働力員数(人)   6.4 5.4 5.4 6.7
飼養頭羽数(平均種雌豚規模) 147.1頭 165.5 162.6 167.6 169.5
販売・出荷量等(肉豚出荷頭数) 2,754頭 2,993 3,231 3,616 3,853
 

3.経営活動の推移

年次 作目構成 飼養頭(羽)数 経営・活動の内容
S35
S45
S53




H14
H15
H16
(4月)

(10月)


H17
(4月)

(8月)
(10月)

H18


養豚専業


種雌豚30頭規模

種雌豚70頭規模
種雌豚120頭規模
種雌豚170頭規模
父が養豚を開始した。
3,000羽程度のブロイラーも飼育する。
養豚以外の農業を中止した。現社長が20歳で就農した。




法人化、コンポスト整備
浄化槽整備
直販を本格的に取り組んだ
特許庁へ商標登録申請「頑固おやじのぶた」
自社ホームページでトレーサビリティ情報を開示
三重県ビジネスプランコンペ「食の安全・安心を伝えるビジネスプラン」優秀賞受賞

「頑固おやじのぶた」商標登録認可
移動販売1号車導入・開店
   〃  2号車  〃
自動包装機導入(パッケージ作業省力化、性能向上)
ハウス式大型冷蔵庫導入

「IT経営百選」で優秀賞受賞
 


4.経営のあゆみ

安全な畜産物提供への積極的な取り組み(HACCPと豚肉のトレーサビリティ)

[経緯]

 牛肉の流通においては、BSE問題の発生後、その解決のために個体ごとのトレーサビリティ体制が構築され、消費者に安全性を証明し、安心を届けていた。養豚においては対象頭数が多く、これに取り組む場合の手間がネックにもなり、国を挙げての取組体制には至っていなかったが、松阪牛のトレーサビリティシステムを早期に立ち上げた松阪食肉衛生検査所を中心に、豚でもトレーサビリティに対応できないものかといった検討が進められていた。

 平成15年頃から当経営も出荷先関係機関の同検査所等と検討を重ね、17年6月頃から試行期間としてこの取り組みを開始した。

[ネックの解決]

 農場では生産された子豚1頭ごとに耳標を装着し、衛生対策の記録に活用すると共に、トレーサビリティの情報としてこれを管理し、と畜時にと畜番号と自社の耳標番号を整合することが一番のネックになっていたが、と畜に当たる食肉公社職員が、農場で付けられた耳標とと場でのと畜番号を記録することより、このトレーサビリティ体制を構築した。

 この結果、自社で付けた耳標番号とと畜番号は、まったく異なる数字となるが、記録された一覧表が農場にファックスされるので、これを自社ホームページに公開し、インターネット上で公開される。(自社で自家販売する生肉商品パックには、豚の耳標番号が印刷されている。)

 これらの生産履歴で公表する情報は、該当する豚の両親、生年月日、給与した飼料情報、ワクチネーション履歴などであるが、以下のHACCP及びトレーサビリティに取り組んでいる。

[HACCPの実施]

1 松阪食肉衛生検査所に、使用しているワクチン、抗生物質、衛生プログラムを報告・公開し、
ピンポイントでの抜き打ち検査を実施。
2 要指示薬、飼料添加剤の使用状況を記録、保存。
3 消毒薬の散布状況を記録、保存。
4 サルモネラ対策で殺鼠実施状況を記録、保存。
5 地下水の毎月の使用記録、水質分析を年2回実施、保存。
6 放流水の排水を分析、保存。
7 履歴をたどる為に、肉豚1頭ごとに母豚番号を切耳。
8 2004年11月より肉豚1頭ごとに識別番号を装着。
9 2005年4月より自社ホームページにてトレーサビリティを開示。
10 農場訪問者記録の記帳と作業日報の記録保存。

[松阪食肉(豚肉)の安全安心確保システムの概要]

 松阪食肉(豚肉)の安全安心確保システム(フロー図下記)に参画する当事例では、松阪食肉衛生検査所に対し「飼養管理プログラム」「医薬品使用管理プログラム」その他を基準としてた必要情報を提供することにより、同検査所から、「残留医薬品チェック」「微生物汚染チェック」「食肉検査・データ分析」などの検査結果を提供されたり、家畜保健衛生所や畜産研究部の指導を受けたりして、安全・安心の豚肉を市場に提供している。




 この取り組みには、松阪食肉衛生検査所を中心にして、行政機関や家畜衛生、と畜・流通そして消費者といった関係者から構成される「松阪食肉公社肉質向上委員会」において、それぞれの立場から安全な豚肉の流通を支えるために「ブウブウ運動」を展開している。

 これにより消費者には、トレーサビリティに基づいた安全な豚肉が提供されている。

 この取り組みは、平成14年度から試行され、現在本格稼働している。豚肉のトレーサビリティについては、当事例のホームページからパッケージに表示されている識別番号を入力することにより誰でも確認できる。

 現場でのトレーサビリティの実施に当たっては、母豚の履歴はもとより分娩された子豚についても履歴が追跡できるように仕組まれている。

 耳標による子豚の管理は次のようになる。
  離乳時に1頭ごとに耳標を装着する。
  離乳以降出荷までは、他の群と混飼されることになる。
  出荷時に番号を記録し、出荷する。

 と場では、と殺に当たる職員が、豚に付けられた耳標番号を確認し、ここでトレース番号確認票に記録を残し、これが農場にファックスされてくる。

 この表により、農場ではコンピュータにデータを入力すると整合性が取れることになる。

こだわりの豚肉生産と販売への取り組み

 当事例で取り組むこだわりの豚肉生産のために「こだわりの目標」として次のことを掲げている。

1 おいしさを追求した豚肉の生産
2 安全性への情報発信を積極的に行う
3 環境に配慮して豚肉を生産していく
4 フレッシュな豚肉の提供

 そして、この目標を達成するために、次のこだわりを実践している。

(1)水へのこだわり

 地下100メートルから水を汲み上げ、この水を(株)赤塚(www.akatsuka.co.jp/)製の「元始活水器」を通すことにより、さらに、よい水にして豚に飲水させている。この水は、肉の筋肉の繊維を細かくして、やわらかさを増したり、家畜の臭いを減らしたり、害虫の発生を減らしたり、動物と植物の活性化をさせる効果があるようである。また、この水のみの効果とは言えないかもしれないが、生産成績全般が向上してきたのも、この水を使用し始めた頃と一致するようである。

(2)飼料へのこだわり

 飼料形態はペレット状で、ライ麦を使用して脂肪をより白く、品質のよい脂肪に仕上げている。
また、飼料には、海草成分のミネラルや木酢酸を添加して、肉の臭みを取ったり、やわらかさを引き出したりしている。

(3)品種へのこだわり

 外部からの疾病を防ぎ、安全性を確保するために、種雄豚、種雌豚ともに自家生産している。原種の確保のための人工授精も実施している。

 生産性を上げるためにハイブリッド種を飼育する経営も多くなってきているが、在来種のLW×Dという、あくまでもおいしさにこだわったかけ合わせの肉豚の生産に取り組んでいる。

(4)環境へのこだわり

離乳以降の子豚舎、肥育豚舎については、おが粉を敷料とした踏み込み式豚舎である。定期的にショベルローダで搬出する。

分娩舎、離乳舎については、一部を除いてスノコ式のため、固液分離を行う。尿は処理施設へパイプで搬送、フンはショベルローダで密閉式コンポストへ投入。

種雌豚舎は、施設が古いために豚房から豚舎外への搬出は、一輪車を利用して搬出後、ショベルローダでコンポへ投入。

コンポへ投入されたフンは、季節にもよるが1週間から10日で堆肥化された後、搬出し、堆肥舎へ堆積する。

利用者は近在の小規模農家、家庭菜園が主であり、これらが農場へ引き取りに来る。料金は1m3当たり(概ね軽トラック1車)1,000円と30kgで100円を基本にしているが、キャンペーンでは条件により半額での販売もしている。(30kgの販売は自社で袋詰めすることはなく、利用者自身が用意した袋に堆肥を詰めることとしている。)利用者の名簿は概ね250名余り。

尿は、浄化処理で県の基準を下回る濃度で農業用水へ放流。

環境処理で問題発生はなし。

オガコ利用、(稲収穫後の期間は、もみ殻を利用することもある。)

  内容 割合 用途・利用先等 条件等 備考
利用の内容 販売 100% 一般家庭菜園が主
地元梨栽培業者
農場に取りに来てもらい
自分で詰めて貰う。
2tトラックによる
配達も可
交換      
無償譲渡      
自家利用      




 
(5)お客様優先の受注体制と豚肉提供へのこだわり

 お客様の注文により、[と殺]−[脱骨・成形]−[カット・スライス]−[配送]しているので、受注から発送まで1週間ほどの時間が必要になるが、少しでも新鮮なものを届けるためのこだわりのひとつとしてお客様の支持を得ている。

 また、生肉の販売に当たっては、部位別のブロック単位の販売ではなく、お客様の希望を優先し自社でスライスするなどの対応を取っている。自家販売に供する豚は、メス、格付、体重等優秀なものを選別し、自家引き取りとなる。注文量により枝での引き取りを最小限にして売れ残る部位がないようにすると共に、必要な部位については、別途買い取る方式を取るようにしている。

 以上のこだわりを持って生産された豚肉は、商標登録も取り、「頑固おやじのぶた」として販売している。

 個別販売の業績は、夫婦で取り組んだ当初の1年間は月20万円から30万円の売り上げだったが、現在では生肉だけでなくウインナなどの加工品の販売も順調なことから月120万円強の売り上げになってきている。

 加工品の製造については、2か所に作業委託しており、現在では10数種の豚肉加工品を販売するに及んでいる。

高い生産性とこれを支える取り組み

項  目 成 績
種雌豚平均飼養頭数 169.5頭
種雌豚1頭当たり分娩回数 2.54回
     〃    分娩子豚頭数 28.1頭
     〃    離乳子豚頭数 26.7頭
     〃    肉豚出荷頭数 22.7頭
子豚離乳時日齢 21.2日
    〃  体重 5.78kg
出荷時平均日齢 216日齢
   〃   体重 112.2kg
   〃   枝重量 73.1kg
「上」以上格付率 62.8%
   年間肉豚出荷頭数計は、3,853頭であり、その他に肉豚から候補豚として振り替えた頭数が89頭、計3,942の豚を出荷・振替した。⇒種雌豚1頭当たり23.2頭。

 生産部門の基礎となる生産性は上記の表のとおり高水準の成績である。繁殖成績を上げるために実施し、かつ効果が上がっている取り組みのひとつに、受精後21日齢で行うエコーでの妊娠鑑定がある。この鑑定を実施することで、確実に受胎を確認できた個体、受胎を確認できない個体、その中間であいまいな個体を区分し、確認できた個体以外は再度1週間後に受胎確認を行うことにより、空胎の母豚をなくすように努力している。

 この確認作業は、専属の獣医師に作業を委託している。

意欲的なビジネスコンペ等への挑戦

・食の安全リーディングビジネス創出事業(平成16年度)

 三重県農水商工部マーケティング室が募集し、当事例が応募したこの事業は、「食の安全・安心確保のための取り組みがこれからのビジネスチャンスとして展開されること」を目的に実施されたものである。

 当事例は、「豚肉のトレーサビリティと消費者の声を聞くための直販体制の構築」を提案し、多頭数を対象とする豚枝肉では困難とされてきた個体ごとのトレーサビリティシステムを構築し、安全で安心な豚肉の生産に取り組み、消費者の声を聞ける直販に取り組んでいることに高い評価を受けた。

 このシステムの構築についてこの事業の提案に補助金が給付された。

・IT経営百選

 経済産業省が所管する平成18年度の「IT経営百選」では、情報技術(IT)を活用した経営改革などに積極的に取り組み成果を上げる中小企業を選定した。

 平成16年度に第1回の選考が行われたこのコンペの第2回となる平成18年度に当事例が挑戦し、優秀賞を受賞した。全国では161社(最優秀賞76社、優秀賞59社、奨励賞14社、IT活用賞12社)が選考された。

 当事例が優秀賞に値する評価を受けたのは、ITの活用の中心が業務処理の高度化に留まっている経営が多い中にあって、ビジネス・経営面でのIT活用が顕著であり業務の革新のためにITが活用されている先進的な企業であると認められた点である。

 具体的なIT活用としては、自社ホームページからの情報発信、上記の豚肉のトレーサビリティシステムの活用や自社内の繁殖から出荷に関係する管理・利用状況などがあげられる。

積極的な情報提供

・ホームページからの情報発信

 中央畜産会から三重県畜産協会に委託のあった平成16年度有機畜産物等生産情報交流促進事業では、自社のホームページの作成や消費者との現地交流会にも先進的に取り組んだり、通販サイト(楽天)にも出店するなどITを利用した情報発信にも積極的に取り組んでいる。

 ホームページからの注文割合は10%程度で、全体からみればその占める割合は低いものの、自社商品の紹介を一手に担い、各種広報手段の基礎データとして整理や提供に役立っている。

・自作チラシ等による情報発信

 生肉や加工品の販促はいうに及ばず堆肥の販促にもオリジナルのチラシやDMハガキを作成し、顧客に向けて情報発信を行っている。

 現状での豚肉の顧客数は、900名程度、堆肥にかかる顧客数は240名程度であるが、それぞれの顧客は新規の獲得がある一方で、名簿から抹消せざるを得ない顧客もいる。減少数を上回る新規開拓が必要で、自家販売にとって特に重要な一面である。

新しい知識や技術の習得

・各種セミナーへの参加

 畜産協会や養豚協会など県内の関係団体が開催するセミナーや全国規模で開催される研修の場にも社長自らや従業員が積極的に参加し、新しい知識の習得に努めている。

 また、研修から得られた知識や情報については、職員に伝達し現場で生かすようにしている。

 成果の一つとして例をあげると、従業員の作業についても安全を確保することが大切であるという認識を高め、前日からの就寝状況や体調を聞き取り、不具合な場合は作業に当たらせないようにするなど会社内での事故防止策として活かしたりしている。

・食肉加工の研修

 自家販売を始めるに当たり、お客様の要望に応えるために、自社内でスライスをできるように体制を整え、取り組んだ。施設の整備は基本条件であるが、スライスの技術そのものを経営者夫婦で研修し、従業員への技術伝達も行った。

 精肉店に依頼し、脱骨、肉の切り方、パックの仕方、ラベルの貼り方など必要な技術を学んだ。

的確なデータ管理と利用

・コンピュータの有効利用(生産データ、販売データ)

 インターネットの創成期でもあった平成8年頃、すでに家庭にインターネットを接続し情報の収集等に利用するなど、コンピュータの利用や情報の収集についても非常に先進的かつ積極的である。

 現在のコンピュータ利用は、経理処理はもちろん豚の生産管理等については、市販されるプログラムソフトでデータを管理するとともに、豚肉の販売関係については、畜産協会が提供した簡易なエクセルファイルを活用し、管理したりそれぞれの情報の分析に用いて経営運営に活かしている。

 肉豚の出荷成績等については、毎日の成果をグラフ化したものを事務所内に掲示して、従事者全員がいつでも目にできるようにしながら、経営努力への意識付けをするように取り組んでいる。

適切な環境対策

・放流基準を上回る排水処理対策

 繁殖豚舎、分娩豚舎等については、豚舎構造上効率的に作業が行える構造ではないが、こまめな対応により、畜舎環境の保全に努めている。

 子豚舎、肉豚舎は、オガコ利用による踏み込み式豚房で省力化を図っている。

 農場からは1日当たり3トンのふん尿と12トンの排水が出る。

 それぞれの豚舎から搬出されたふん尿は、固液分離し密閉式コンポストで発酵させて堆肥化し、野菜、果樹、お米や花の肥料として近在の家庭菜園、畑、水田で利用されている。

 この堆肥を使用した作物の一部も直販の対象としており、いずれも大変おいしいとか花は鮮やかで花もちが良いと好評である。

 尿は場内で処理後、農業用水へ排出することから、バクテリアによる分解と最新の中空糸膜を使用して、伊勢湾排水規制の1/10程度まで排水濃度を下げた後、放流している。
  
 
 

5.地域農業や地域社会との協調・融和のために取り組んでいる活動内容

地域社会との共存

・見学者や職場体験の受け入れ等

 県内全域を眺めても畜産農家戸数が少なく、当農場の周囲を見渡してもその状況は変わらない。

 畜産への関心を高め理解を得るために、近在の小学校の牧場見学を受け入れ始めて7年ほどが経過する。毎年11月頃に3年生児童ら約100名が訪問するので、分娩舎内部や分娩そのものを見せて、命の大切さを話したり、お楽しみのサービスとして焼肉の提供もしている。

 対象が中学生になると2年生数人が、職場体験学習の依頼に始まり、現場では男子には豚舎内の清掃などの簡単な飼育体験をさせたり、女子には、直販の経験をさせたりしている。こういった取り組みも数年を経過する。このような取り組みは、地元のケーブルテレビ等でも取り上げられている。

 その他にも、地域活性化のために市民主催の祭りに出店したり、市内中学校のPTAバザーに出店するなど、地元に密着した活動をしている。

 また、畜産生産仲間や畜産関連会社から依頼され、研修先として従業員を受け入れ、現場でのみ可能な研修指導にも当たっている。このことは、受け入れる当農場の従業員の姿勢にも良い影響(刺激)を与えているようである。

・資源循環型農業の実践

 先の環境保全の項目でもふれたように、近在の農家の堆肥引き受けにより地域内の資源循環型農業に貢献している。

 堆肥の販売に当たっては、年に2〜3度、時機を選んで、キャンペーンを実施し販売促進に当たると共に顧客の獲得にもつなげている。

 顧客の多くは、家庭菜園程度の少量の利用者が多いが、これらの利用者が堆肥生産量の半分を利用しているので、大切なお客様として名簿の整理に当たっている。

三重地物一番としての認定と販売

 三重県農水商工部マーケティング室が推進する「三重地物一番」の登録会員として、地産地消の意義を理解し、県の広報活動に協力したり、商品の提供を行っている。

 「三重地物一番」の取り組みは、三重県の地産地消運動を一層推進する取組みとして、地元が一番という様々な思いが込められているもので、三重県産品を改めて見直し、オンリーワンという誇りを持てるよう、生産者も消費者も、意識して三重県産品に向き合ったり、四季を感じ豊かな心を育むために身近な地元の旬の食材が一番という意識を持ち、食を通じて生産者と消費者の結びつきを強めていこうとするものである。

三重県畜産協会事業への協力

 三重県畜産協会が平成17年度から実施している地域畜産ふれあい体験交流推進事業において、18年度の調理体験教室では、生産履歴の明確な「頑固おやじのぶた」を材料にした。

 トレーサビリティにより生産履歴が把握できる、生産にあたって前掲のとおりのこだわりを持って生産された豚肉であること、そして何よりもそういった豚肉を流通させている熱い思いと実践を参加の消費者に伝えてもらった。

 取り組み発表後の参加者との意見交換も活発に行われ、話題は堆肥の製造利用にまで及んだ。

 このように直販に取り組む多忙な中で畜産協会の事業推進に理解を示し、協力もいただいている。


6.今後の目指す方向性と課題

おいしくて安全・安心の豚肉の提供

 こだわりを持った「頑固おやじのぶた」は、スーパーに並ぶ一般流通品より単位当たりの販売価格は高いが、安全性への取り組みなどその価値を認めてもらう人に買ってもらえるような豚肉の生産に取り組んでいきたい。

 このためには、トレーサビリティなど自社だけでは取り組めない部分や、消費者からの支持という大切な部分もあるが、あくまでも軸足を生産においた堅実な経営を継続していきたい。

店舗販売に向けての経営構想

 本格的に自家販売を始めて約3年が経過しようとしている。口コミにより漸増してきた直販量を目標に向けて全頭自家販売を目指そうとすると、現在は取り組んでいないが、固定店舗での販売を視野に入れる必要も感じる。

 現在の販売方法(個別配送、楽天などのネット販売)は、今後もそれぞれの特性を活かして継続していくが、地元顧客の支持に応えるためにも、スーパーで販売も段階を経て取り組めるように準備を進めていきたい。

 現在、農業資材を扱うホームセンターで商品の販売を開始したが、返品や廃棄等のリスクも否めないのが実情である。

 スーパーでの直接販売までには、まずはその店舗で自社の枝肉で取引してもらい、信頼関係を構築した後に、さらに有利な販売を行えるようにステップを踏んで事に当たってきたいと考えている。

豚舎等老朽化施設の改善

 後継者として期待される長男は現在22歳で、経営継承の意志も確認でき、つい最近(平成19年5月)から就農した。現在、自社農場で実践的な技術を身につけると同時に、各種研修において必要な知識の習得も努力している。

 この後継者の就農により、長期にわたる経営計画も必要であり、生産現場の整備も進める必要がある。

 現在の施設の一部は、現経営主の就農当時からのもので、老朽化が進んでいる豚舎もあり、例えば繁殖豚舎等は作業性に劣る欠点もあることから、これらの改善が必要となってきている。投資については、今後、詳細な計画を基に実行に移していきたいと感じている。