地域の稲わらを利用した肉用牛肥育経営
M牧場(T市)
 
事例のポイント

 銘柄牛飼養の規模拡大に伴い、生産コスト低減と安全な肉牛生産のため、耕種農家と共同で稲わら収集と堆肥散布の作業を行う組織を構成し、地域内で産出される稲わらを積極的に収集するとともに堆肥の還元による循環型農業の一翼を担い、地域に根ざした肥育経営を展開している。
 
1 地域の概要
 当地(旧I町は平成18年1月、旧T市等10市町村で合併)は、三重県のほぼ中央に位置し、平坦地から中山間地に広がっている。

 主要農産物は、水稲、小麦、大豆、野菜(なばな、ブロッコリー、キャベツ等)、果樹(いちじく)、肉用牛であるが、主体は稲作中心である。畜産については、肉用牛、採卵鶏が中心となっており、特に肉用牛については、高級肉で知られる松阪牛の産地でもある。

 旧I町の農業及び畜産の概要については、次表のとおりである。(第51次三重県農林水産統計年報)

畜産の概況(旧I町)            (単位:戸、頭、千羽)
区分 飼育戸数 飼養頭羽数 1戸当たり規模 県平均
肉用牛 3 560 186.7 100.4
1 × 1,583.3
採卵鶏 3 797 35.9

農業産出額
農業粗生産額 281千万円
うち畜産 188    
  肉用牛 13    
X    
採卵鶏 148    
 
2 経営の概要
経営の形態 肉用牛肥育350頭+水稲(3ha)
労働力 家族:3名(本人、母、姉)
雇用:5名
経営面積 水田 その他
ha
3.0
0.4 0
 
3 取り組みの経緯
 父が昭和40年頃に肥育牛へと転換し、石油ショック以前までに50〜60頭まで飼養規模を拡大した。その後、市場経済の影響を受け増減を経験し、平成元年には60〜70頭、平成11年頃には肥育牛130頭と40頭の乳用牛(育成:酪農家と契約)を飼養するに至り、13年度には肥育牛300頭と更なる増頭に取り組み、15年に350頭規模まで拡大した。

 本人は18年から経営を父より譲り受け、現在に至っている。

 稲わら収集は、以前から自給のため個人で収集を始め、約15ha分を確保していたが、13年の規模拡大を行った頃から口蹄疫、BSE等稲わらの確保が困難となるとともに、安全な粗飼料に対する認識が高まったことを受け、15年度から地域内耕種農家と稲わら収集・堆肥散布の共同作業を始め、現在は、概ね100%自給されている。
 
4 自給飼料生産の現状と方向
作付草種 収集面積
(ha)
10a当たり
収穫量(kg/10a)
収穫量(t) TDN収穫量(t) 利用形態
稲わら 45.0 480 216.0 60.2(*0.376) ロールベール

飼料生産用機械の整備
 ベールカッタ1台、ロータリーテッダ2台、フォークリフト1台、ロータリーレーキ3台、
 マニアスプレッダー3台、トラクタ5台、カッティングロールベーラ1台、
 自走式ロールベーラ1台、ダンプ2台、ラッピングマシン1台、
 ショベルローダ3台、 軽トラ3台、
(共同所有:自走式ロールベーラ、テッダーレーキ、梱包解体機、マニアスプレッダー)

稲わら収集に係る費用(50haで試算)
労働費 900千円
燃料費 100   
減価償却費(機械・機具) 1,930   
税金・保険 50   
諸材料 230   
合計 3,210   

稲わら単位当たり費用(50haで試算)
DM生産費 15.2円/kg
TDN生産費 40.5    

 (参考)
  年間生草収量:240,000kg
  年間DM収量:210,720kg
  年間TDN収量:79,230kg
 
5 自給飼料・生産利用による効果
 銘柄牛の飼育地域でもあるため、出荷先からも安全・安心な生産物に関する要求が強く、地域内の素性の明確な稲わらをヒ素等の残留チェックをし安全確認したうえで利用し、低コスト化のほか、その期待に応えるものである。

 また、生産調整における麦作予定地の稲わら収集(野焼き禁止への対応)や、稲わら・堆肥交換による堆肥散布等、地域内での畜産農家の存在、・位置づけの認識を高めてもらう機会ともなっている。

 しかしながらその一方で、稲わら収集、堆肥散布の両作業とも天候や地主の意向等の外的要因に大きく影響され、作業時期が一時期に集中することとなるが、これに対応可能な労働力及び施設・機械の確保が必要となっている。
 
6 成功の要因
 稲わらの収集にあたっては、稲わら・堆肥交換時に良質な堆肥を供給し、耕種農家の信頼を得ることにより面積拡大を行って、生産コストの低減に努めており、このために必要な籾殻については、地域のRCのほか大規模稲作農家等から供給を受けているが、引取時期等に関しては、先方からの要請に応じた対応をするなど耕種サイドからの要求に応じていくことで、その安定確保を行っている。

 また、平成15年度から稲わら収集・堆肥散布について、地域内耕種農家との共同作業を始め、より効率的な作業体制の整備を行っており、その際にも、(1)生産調整(ブロックローテーション)の麦作予定地での稲わら収集、(2)稲わら・堆肥交換、(3)堆肥散布(散布のみ、耕起付き)、(4)耕種農家からの労力提供の変わりに堆肥散布等々、地域の耕種農家の要望にきめ細かに対応することにより、地域に根ざした畜産経営の展開を心がけている。
 
7 今後の展望
 今後は、さらなる規模拡大を視野に入れた経営展開を計画しており、さらなる効率化が求められる。また、規模拡大に伴う糞尿処理も課題となってくるが、近隣のエコファーマー認定農家と連携し、地域密着型の資源循環型農業のさらなる推進を行うことにより、解決していきたいと考えている。

 稲わら収集については、近隣大規模ほ場での集約的な実施に期待したいが、他力本位の要因が多く(地主の意向、転作等の政策、天候、周辺環境等)量的な拡大よりも質的な向上が必要である。