食品廃棄物の実態と食品リサイクル法への対応

東京農業大学 教授 牛久保明邦

講演内容の要約

 わが国の廃棄物排出量の現状は、「大量生産、大量消費、大量廃棄」の社会構造から脱却していない。

日本の廃棄物排出量の実態

 平成10年における排出量は、約5,160万トンである。その内、食品廃棄物の占める割合が重量比で約30%であり、更に25%が容器包装廃棄物と推定されている。 一般廃棄物の処理状況は、直接埋め立て、焼却、焼却以外での方法で中間処理されるものと資源化がある。

産業廃棄物

 産業廃棄物の排出状況は、平成4年度に4億トンの大台となった。平成10年度の排出量は、約4億800万トンに達しており、一般廃棄物の約8倍に相当する量である。
 種類別の排出量は、汚泥、動物のふん尿及びがれき類で上位3品目で総排出量の約8割を占めている。食品リサイクル法で食品廃棄物として対象となっている動植物性残さは、約397万トン排出されていた。

食品廃棄物の発生量とリサイクルの状況

 食品廃棄物には、家庭から排出される一般廃棄物と食品流通段階や外食産業の段階で排出される事業系一般廃棄物と食品産業で製造、加工の過程において発生する産業廃棄物である動物性残さが該当する。これらの排出量合計は、約2,000万トンと推計され、食品廃棄物のリサイクル率は、肥料、飼料等への利用が約9%に過ぎない。

食品リサイクル法制定の背景

 平成5年に施行された「環境基本法」の理念にのっとり、循環型社会の構築を目指すため国、地方公共団体、事業者及び国民の責務を明らかにし、リサイクルの推進等によって廃棄物の排出量の削減等廃棄物問題に取り組むため、平成12年6月「循環型社会形成推進基本法」が制定された。 食品廃棄物は、食品事業者の活動のみならず国民の日常生活からも多量に発生している。

「再生利用等」の手法とは、
 (1)発生抑制:食品廃棄物等の発生を未然に抑制すること。
 (2)再生利用:食品循環資源を飼料、肥料その他の製品の原材料として利用すること。
 (3)減量:食品廃棄物等を最終的に処分する前に脱水、乾燥、発酵または炭化により、
       食品廃棄物等の重量を減少させることである。

堆肥(肥料)、飼料等への循環資源の利用状況

 食品廃棄物は、コンポスト化が主流であり、次いで肥料化あるいは飼料化する事例が一般的である。しかし、わが国における堆肥等循環資源の利用状況は、農業従事者の高齢化、兼業化に伴う農業人口の減少や耕作地面積の減少、化学肥料利用による施肥管理、コンポスト需要量の減少や輪作体系の崩壊に伴う農法の変化等によってその利用量の減少が顕著である。

 飼料においても、肥育豚一頭当たりの残飯給餌量の推移を見ると、昭和40年の約206s/頭の給餌量であったが、平成9年には約6s/頭に激減している。

食品リサイクル法への対応

 食品産業は、用水の使用量が極めて多く、用水量の削減は、食品廃棄物の発生抑制と含水率減少による減量化並びに排水量の削減につながる。

食品循環資源の品質安定と量の確保対策

 食品廃棄物の再生利用等で、飼料化あるいは肥料化を試みる際に食品循環資源が有すべき条件は、異物混入防止と分別の徹底が不可欠である。

 食品循環資源をコンスタントに確保することは、量及び質の安定化と製造量が確実に計画生産するために必要なことである。

利用者である農林水産業とのコンセンサス

 食品循環資源のリサイクル製品の需要拡大を法律に求めるには限界がある。そこで、堆肥化の場合を事例として需要を拡大するために、堆肥腐熟度判定の確立、土壌調査の実施とモニタリング調査、有機資源の使用マニュアルの策定、環境保全型農業の確立と輪作体系の復活のような対策が必要不可欠である。

食品廃棄物の循環利用システムの構築

 食品廃棄物排出事業者者がまとまることによって廃棄物の量を確保することと、質の安定化のために異業種食品関連事業者が連携した組織化が必要である。

再生利用等の考え方

 食品廃棄物は、極めて豊富な栄養分を含んだものである。そこで、食品循環資源のリサイクルの優先順位は、先ず飼料化である。次に飼料化不可能な食品循環資源について、堆肥化あるいはメタン発酵でのメタンガスによるサーマルリサイクル等の再生利用化が準ずるべきである。

 最近の技術として廃棄物を糖化して糖を工業製品原料として生成し、さらに生分解性プラスチックの原料やブタノノール、メタノールを作る技術が開発されており、食品廃棄物の次期再生利用製品として加えられる可能性が近い。