4.食品廃棄物の飼料化

 食品加工や醸造の過程で排出される不用物や厨芥を飼料として利用することは、以前から行われていた。食品くず養豚、残飯養豚等がその典型事例であったが、それらは配合飼料の普及等によって衰退してきた。ここで紹介するのは、自己の飼養する家畜にこうした食品加工残渣等を給与する畜産経営の事例ではなく、食品廃棄物から飼料を生産し商品として販売している企業(N社)の事例である。

 N社は、ノルトライン・ヴェストファーレン州にある民間の株式会社である。当州は、ドイツ有数の工業地帯であるルール工業地帯を擁し、その高密度の人口を背景に中小家畜の畜産が発達した地域であり、また大口の食品需要を背景に食品製造・加工業の集中した地域でもある。従って、飼料化のための原料の調達、生産された製品の販売に大変有利な地域であるといえる。

 N社は、食品加工工場での残渣物、規格落ち品や出荷時に何らかの問題で商品化できなくなったもの、返品されたもの、流通・小売り段階で賞味期限が切れたり品質が低下したりして販売に供することができなくなったもの等を収集して、主として豚(一部肥育牛用)の飼料を生産し、農家に販売している。

 これを物質循環からみると、図2のように、ひとつの閉じた体系となっている。つまり、N社が製造した飼料が養豚経営、肉牛経営等家畜生産の現場で利用され、できた農畜産物が原料として食品加工工場に供給される。そして、その製造加工工程で出てきた残渣や規格落ち品、さらには出荷された食品が流通する段階で商品価値を失ったものが、N社に集められ再び飼料化されるのである。

図2
図2 N社と食品リサイクル

 有機廃棄物から飼料生産を行う現在のN社は、1993年に設立されたのであるが、もともとは大規模な養豚を営む経営であり、同時にビール工場、乳製品加工工場、馬鈴薯加工工場の廃棄物の収集・処理も行っていたのである。つまり、養豚と食品加工残渣の利用を結合させたいわゆる「食品くず養豚」を営んでいたのであった。さらに、30年ほど前に小規模な配合飼料の工場を構え、配合飼料の製造と販売を行うようになったのである。現在、一時は年間17,000頭を出荷していた養豚部門を地盤沈下問題等を契機に廃止し、1995年に現在の場所に飼料化のリサイクル工場を建てている。この最新技術を導入した処理工場は、2,600万マルクの投資を必要としたパイロット的な新規事業であった。

 図2にみるようなリサイクルのアイディアおよび必要なノウハウは、養豚、食品工業の残渣物処理、配合飼料生産という自らが携わっていた3つの事業の経験から得られたものである。

 飼料の原料としてN社が受け入れている廃棄物は実にバラエティーに富んでおり、チョコレート、乳製品から野菜の切り屑やレストランの残飯まで、その種顛は600以上にものぼる(表2参照)。ただし、家畜のと体、と場残残渣は、処理温度規定の関係から受け入れることができない。

表2 N社の主な飼料原料

業 種 受け入れ物
ベーカリー業 パン、くず、ケーキ、ペストリー、ビスケット、ワッフル等
製菓業、甘味製造業 ビスケット、チョコレート、キャンディー、シロップ、砂糖、
スナック菓子等
シリアル、
パスタ製造業
シリアル、パスタ、タイク、ベーキングパウダー、スープパウダー等
馬鈴薯加工業 蒸しくず、カットくず、澱粉廃液、ピユーレ、チップ、フレンチフライ等
青果加工業 冷凍食品、調理済み食品、カット野菜、ジャム、ジュースピューレ等
食肉加工業 ハム、ソーセージ、ベーコン、脂身、ハンバーガー、
ホットドッグ、魚肉等
コンビニエンス食品業
惣菜業
レデイーメイド食品、ソース、マヨネーズ、ケチヤップ、冷凍食品等
乳製品加工業 牛乳、ヨーグルト、バター、クバーク、アイスクリーム、
チーズ、粉ミルク等
ビール醸造業 ビール粕、ビール酵母、麦芽研磨残粉等
食堂、レストラン 調理くず、残飯

 N社の飼料化工場での工程は、およそ次のような流れになっている。

(1)受け入れた原料が腐っていないことをチェックし、総量を計測する。
(2)乾物重量、たんぱく、炭水化物、脂肪、灰分、飼料適性等が分析される。
(3)飼料化のうえで不足部分を補える原料グループ間のコンビネーションを見極める。
(4)欠けている栄養素について添加物等を入れて補う。(アミノ酸、ビタミン等)
(5)地域の農家の要求によって標準化された内容の飼料を生産する。
(6)年間を通して高品質な飼料を出荷する。

 N社に引き取られる食品加工製品等は、包装されたままのものも少なくない。包装物の除去は廃棄物の再生利用の際のネックとなっているが、N社では包装物を分別除去するシステムを取り入れている。取り除かれた包装資材だけでもかなりの量となるが、除去された資材は再生利用にまわされている。

 表2でみたように多種多様な食品廃棄物が飼料の原料となるのであるが、ポイントとなるのは、その時々で入ってくる原料(食品廃棄物)が異なるにもかかわらず、一定品質の飼料をコンスタントに生産する技術である。搬入した原料は即座に分析され、乾燥時間、水分量、倉庫での置時間、加工プロセス、加工スピード等が決められる。その内容に関しては材料ごとにレセプトが用意されており、コンピュータシミュレーションによって適正な原料の組み合わせと処理の工程が示されるようになっている。現在では、経験の蓄積と独自の技術開発によりほとんどすべての食品廃棄物を飼料化することができるようになっている。

 こうして生産された飼料の種類は100以上になる(図3参照)。できた製品は家畜の嗜好もよく、生産コスト低減にも寄与していることがわかっている。利用農家の経験から、肥育豚1頭当たりの肥育コストを10マルク程低減できるという。(残念ながら、製品の飼料の販売単価は明らかにされなかった。)

 N社では、このような独自の技術と1日に100トンを処理できる能力をもつ工場設備によって、年間100万トン以上の原料を受け入れ、23〜34万トンの飼料を出荷している。原料となる食品廃棄物の引き取り料金(N社の収入となる)は、ものによってまちまちであるが、トン当たり300から1,000マルクであり、平均すると600マルクくらいの水準になるという。

 現在N社の工場では、100人の従業員が勤務しており、200〜300社から原料となる食品残渣等を受け入れ、400戸以上の畜産農家と配合飼料会社に飼料を販売している。その年間の売り上げは4,600万マルクに達しており、売上額は91年以降常に2桁の成長率を維持している。またN社では、養豚農家と定期的に会合を持ち、自社の飼料の効果を確認しながら、利用者の意見を聞くことによって商品の改良・開発に努めている。

図3
図3 N社の活動(投入〜産出)

 食品残渣を原料に飼料生産を行い、その製品を畜産経営に販売するN社は、リサイクル業界のなかでも革新的な企業として注目されている。廃棄物の焼却等処分コストが上がり、かつ廃棄物に関する法的規制が厳しくなる中で、食品関連産業は廃棄物に関しての新たな可能性を必要としていたといえる。そこにN社はビジネスチャンスを見出したのである。食品残渣をゴミ収集場での処分料金より低料金で引き取り、自らの蓄積していた養豚のノウハウを活かして畜産経営のディマンドに応じた良質の飼料を低価格で供給することに成功しているのである。

 1998年の循環経済・廃棄物法の改正により、食品廃棄物に関してはゴミとして埋め立て処分することができなくなり、多くの食品廃棄物は焼却が禁じられた。これによって、N社のようなリサイクリング業者が全国的に求められるようになった。まさにN社は、法制度を追い風にして発展したリサイクル先駆者といえる。