3)90年代におけるバイオガスプラントの進展
第3次ブーム

3−1)エネルギー政策と電力の買い上げ

 すでに述べたようにバイオガスの利用は、1950年代(第1次ブーム)、70年代(第2次ブーム)においては熱供給のために燃焼させるのが主であった。しかし、第3次ブームといわれるなかで注目されているのは電力供給である。バイオガスを使った発電が脚光を浴びだしたのは1990年の電力供給法の導入であった。この法で電力供給の自由化が促進されたのであるが、バイオガス発電による電力については環境にやさしい発電ということから電力会社に買い上げが義務づけられ、しかもその買い上げについては料金水準を自由化せずに固定料金が設定されたのである。その固定料金は、一般家庭の電気代をもとに算出された。1990年以前の電力供給会社の買電価格は3〜5ペニヒ/kWh(1ペニヒ=0.01マルク)であったが、同法により1991年では13.84ペニヒ/kWhの水準が設定された。このことによりバイオガスによる電熱併給へという流れが形成されたのであり、バイオガスプラントによる売電が注目を集めてプラントの建設が促進されることになったのである。

 しかしながら、買い上げ電気料金の水準は1990年代前半は上昇傾向にあったものの、1995年を境に下降し始める(図5参照)。これには電力自由化で電気料金全体が安くなったことが影響している。

 その後、バイオガスによる発電に大きく拍車をかけたのは、2000年4月に施行された新エネルギー法(Erneuerbare-Energien-Gesetz)である。同法は、2010年までに温室効果ガスを21%削減し代替エネルギーの割合を倍増させるというドイツ連邦政府とEUの目標を実現するために導入されたものである。脱原発という点においても同法は重要な意味をもっており、具体的にいうと風力、ソーラー、バイオマスなどのクリーンエネルギーの割合を、2010年までに現在の6%から2倍の12%に引き上げようとしているのである。そのため、環境に負荷をかけない発電方法で供給された電力を相対的に高価格で買い上げる義務を電力供給会社に課す政策を打ち出したのである。この法によって、2001年までに建設されたバイオガス発電施設の電力は、20年間にわたって20ペニヒ/kWhという固定水準で買い上げられることになったのである。電力会社による一般の買電価格が7〜8ペニヒ/kWhであることからすれば、この水準自体が如何に高いものであるかが理解されよう。

図5

 また、同法が対象とするクリーンエネルギーのなかにおいては、ソーラーエネルギーが格段に高く価格設定されており、その次に高いのがバイオガス発電がその範疇に入るバイオマスによる発電である(表3参照)。さらに、同法が施行される前の1999年の買電価格水準は14.69ペニヒ/kWhであり、この法によって買電価格は一気に36%も上昇したことになる(図5参照)。バイオガスによる生産電力の買い取り価格が跳ね上がり、しかもそれが今後20年間保証されるとなると、バイオガスプラントを導入するインセンティブは大いに高められる。この新エネルギー法によってバイオガス施設の建設ラッシュともいえる状況が引き起こされたとみてよい。ちなみに2002年以降に建設されたバイオガスプラントの生産電力の買い取り価格については、20ペニヒ/kWhもの水準から1年ごとに1%づつ下げた料金水準が設定されることになっている。

表3 新エネルギー法による買電価格

   運転開始年次による買電価格
(ペニヒ/kWh)
2000 2001 2002 2003
ソーラーエネルギー   99.0 99.0 94.1 89.3
バイオマス 出力
500kWまで
501kw-5MW
5MW-20MW

20.0
18.0
17.0

20.0
18.0
17.0

19.8
17.8
16.8

19.6
17.6
16.7
風  力 運転年数
1〜5年(地域によっても異なる)
6〜20年

17.8
12.1

17.8
12.1

17.5
11.9

17.3
11.7
水力、ゴミ集積ガス
坑内ガス、下水ガス
出力
500kWhまで
超500kW

15.0
13.0

15.0
13.0

15.0
13.0

15.0
13.0
地  熱 出力
20MWまで
超20MW

17.5
14.0

17.5
14.0

17.5
14.0

17.5
14.0

 注:1ペニヒ=0.01マルク

 このように原子力からの離脱と環境保全的なエネルギー政策を進めるために、バイオガス発電のように環境負荷が小さい発電方法によって生産された電力に対しては高い買い取り料金が設定されているのである。しかしながら、このことに対しては政府から電力供給会社に補助金が給付されている訳ではない。買い取り料金が法律で定められ、電力供給会社はそれに従って買い取りを義務づけられているのである。従って、電力供給会社が高く電力を買った分は結局消費者の負担となって跳ね返ってくる。換言すれば、国民が環境保全的な発電によるコスト高を負担していることになるのである。この負担額を国民一人当たりに換算してみると0.1〜0.15ペニヒ/kWhとなっている。

3−2) バイオガスプラントの数の推移

 電力供給法の制定以来、ドイツにおけるバイオガス施設の数は増加を続けている。増加傾向にあることは間違いないが、その数を正確に知ることは困難である。プラントの数を正確に捉えるための公開データはなく、資料による数の食い違いも小さいとは言い難い。ここではさしあたり、バイオガス連合会が公表している資料をもとにその推移をみることにしたい。(図6参照) まず電力供給法が導入された1990年当初では100基程の水準であったのものが、1999年には800基を数えるに至っている。1990年から95年の5年間で2.7倍、1995年から2000年の5年間では4.5倍と、とくに90年代後半の増加が顕著である。新エネルギー法が施行された2000年は、前年に比べて400基の増加をみており、1999年から2000年にかけて5割近い伸びとなっている。

図6

図7

 南部のバイエルン州については、1975年にさかのぼってその堆移をみることができる(図7参照)。1970年代後半および1980年代は、プラント数が横ばいであり、1990年代に入ってから増加をみるようになり、とくに90年代後半の伸び率には著しいものがある。このような90年代に入ってからの伸びをみると、90年の電力供給法がバイオガスプラント導入の火付け役になったことがよく理解される。