4)バイオガスプラントのメリット

4−1) 農業バイオガスプラントの導入メリット

 農業においてバイオガスプラントはブームといえるほど増加の傾向にあることは先に見たとおりである。では農業者はバイオガスプラントを導入することによってどんなメリットが得られるのであろうか。プラントの経済性や今後の方向性を考える上で、農業経営におけるバイオガスプラント導入の具体的メリットを明らかにして整理しておく必要があろう。

 一般的にバイオガスプラントは、密閉した空間で嫌気発酵処理をすることからメタンの放散防止、悪臭の少なさ、という環境問題への対処という点で大きな意味をもっている。しかしながら、それだけでは農家側の導入インセンティブとしては十分ではない。バイオガスプラントの増加の要因を分析するためには、経営経済の観点からのメリットを明らかにしておかなければならない。そこで経営経済的観点からみたメリットをまとめると、下記のものが挙げられる。

 (1)電力生産による電気の自家利用とおよび売電による収入
 (2)熱利用による燃料油の節約
 (3)有機廃棄物利用の場合の廃棄物引取収入
 (4)脱離液の利用

4−2) 事例にみるプラントの経済的便益の構成

 バイオガスプラントには以上のようなメリットが存在するが、これらを個別のプラントで経済評価した場合、それぞれどの程度のウェイトをもつのであろうか。ひとつのバイオガスプラントにおいて、上の4つのメリットがそれぞれどれくらいの重みをもってつながっているのか、その全体像を把超しておく必要があろう。そこで、個々のメリットの検討に入る前に、バイオガスプラントの経済的な便益構造をみておくことにしたい。ひとくちにバイオガスプラントといっても様々であり、それによって便益の内訳も違ってくるが、ここでは典型的な事例をみることによって便益構造をおおまかに捉えるにとどめておきたい。

 事例としてあげるのは、バイエルン州の肉用牛育成経営である。この経営では300頭の肉用子牛を飼養しており、1996年に31万マルクを投じてバイオガスプラントを導入している。発酵基質の内訳は、80%が子牛の糞尿であり、10%がデントコーン、5%が乳製品残渣5%がヒマワリ油の搾り粕となっている。

 これらを450立法メートルの発酵槽で35日間発酵させ、80立法メートルの容量のラップフィルム製のガスバックに溜めている。このガスによって、発電機を平均出力30kWで24時間稼働させている。この発電によって、年間26万kWhの電力を発電している。

 このバイオガスプラントによる経済的便益の内訳は、図8のとおりである。

 これによると、経済的便益のうち最も大きいのが売電収入である。この経営では新エネルギー法の施行によって売電収入は約3万9千マルクとなり、その経済的便益は全体の半分以上の57%を占めている。このことからは、如何に売電価格がプラントの経済性を左右する重要なファクターになっているかが理解される。発電電力の自家利用による支払い電気料の節約分は18%、熱利用による燃料油の節約分は15%であり、電熱併給によるエネルギーの自家利用を経済評価すると2万2千マルクになり、プラントの便益全体の33%の割合になっている。つまり、バイオガスプラントの経済的便益の3分の1程が、エネルギーの自家利用となっているのである。また、発酵処理後の消化液を畑地に還元することによって肥料の購入を節約できるが、その便益の割合は3%に過ぎない。さらに、乳製品工場からの残渣物やヒマワリ油製造の残渣物を引き取ることで、廃棄物引取収入を得ることができるが、それはプラントの経済的便益の7%に相当している。

図8

 以上は、あくまでのひとつの事例ではあるが、バイオガスプラントの経済的便益の内容をみることができた。経済的便益の半分以上を売電収入が占めており、電力の自家消費分を合わせると75%が電力に由来するものとなっている。

 また、熱利用を合わせた電熱エネルギーでみるとバイオガスの経済的便益の90%となり、消化液の肥料利用や有機廃棄物の引取収入といった非エネルギー部門の割合は10%となっている。