バイオガスプラントの経済性を考える際にまず問題となってくるのは、プラントの規模であろう。具体的には、どのくらいの家畜頭数規模であれば、バイオガスプラントの導入が経済的に損失の出ない現実的なものとして考えられるようになるのか、あるいはプラントが大規模なものになっても不利益にならないか、という問題である。
ドイツにおいてもプラントの規模の経済性を十分に実証できるほどの具体的データが蓄積されていない状況であり、研究機関が試験事例やいくつかのプラントのデータを収集して分析しているにとどまる。ここでは、いくつかの研究成果をもとに、規模に着目しながらプラントの経済性について検討することにしたい。
バイオガス関係者の間では、バイオガスプラントヘの投資が引き合う条件として、少なくとも100大家畜単位の糞尿があり、有機廃棄物と混合発酵できること、が挙げられている。そこで100大家畜単位以上の規模を想定して、新エネルギー法で生産電力が高く販売できるようになった状況下において、どの程度の利益が見込めるのかを実際に試算してみる必要があろう。以下に紹介するのは、ラインラント農業会議所が行ったモデル的なプラントについての収支を試算したものである。モデルとして設定されたのは、100大家畜単位、150大家畜単位、300大家畜単位の家畜糞尿を処理するプラントであり、300大家畜単位については共同プラントとなっている。また、それぞれの規模ごとに発酵基質を、
(1)家畜糞尿のみ、
(2)家畜糞尿とデントコーン、
(3)家畜糞尿と残飯
という3種類に分けて経済性を試算検討している。
施設投資に関しては、やや大きめで信頼性の高いシステムを想定しているので、施設費が高めに設定されている。
試算の条件の要点は下記の通りである。
<施設関連>
・基質の滞留時間は45〜60日
・1GV当たり1.7立方メートルのガス発生量。この値は高めであるが、最新の装置で排泄直後の糞尿を利用すれば十分見込める数値である。
・デントコーンについては1トン当たり202立方メートルのガス発生量、残飯については1トン当たり220立方メートルのガス発生量とした。
・バイオガスのエネルギー量は、1立方メートル当たり6.5kwh
・発酵槽の運転コストは、規模によって230から300DM/立方メートル
・電熱併給機(CHP)については電力化割合は30〜37%。kw当たり1600〜1900DMの価額評価。熱効率は50%
・デントコーンや残飯を利用する場合は、貯留槽を大きくする必要があるのでそのコストを80DM/立方メートルとする。
<コスト関連>
・電熱併給機(CHP)のオイル価格は80pf/リットル
・休耕地の休耕奨励金は600DM
・労賃については家畜糞尿貯留槽関係で年間200労働単位時間、デントコーン混合発酵で300〜350労働単位時間、残飯利用についてはトン当たり0.75労働単位時間
これら試算結果(表4−1〜表4−3)によれば、100大家畜単位の規模では家畜糞尿のみを利用した場合、利益は出ず損失が出ることになるが、デントコーンあるいは残飯を混合させた場合は利益が出ている。150大家畜単位、300大家畜単位の規模になれば、家畜糞尿のみの利用でも利益が出ており、さらにデントコーンや残飯を利用すれば利益の大きさは増大する。
つまり、バイオガスプラントは規模が大きくなるほど経済的になるという規模の経済が働いており、大規模プラントの優位性が現れている。専門家の間でよく言われる100大家畜単位の家畜飼養規模はプラント導入を決める際の目安となろう。ただし、この規模では混合発酵によって発生ガス量を高めるという条件が満たされなければ損失が出る。
発酵基質に着目して試算結果をみると、混合発酵が如何に有利性であるかがよく理解される。100大家畜単位という小規模プラントに置いても利益を出す鍵は、混合発酵にあり、150大家畜単位という中規模、300大家畜単位という比較的大規模のプラントに置いても利益額が利用基質によって大きく異なってくることがみてとれる。デントコーンを利用した場合、150大家畜単位の中間規模で家畜糞尿のみの場合より6.8倍の利益額があり、300GVでは5.6倍の利益額となっている。さらに、残飯を用いた場合は、150大家畜単位の規模で家畜糞尿のみの場合よりも15.9倍、300大家畜単位で13倍の利益額が出ている。
以上のように、バイオガスプラントは家畜糞尿をベースにしてみれば大規模ほど有利といえ、混合発酵がその利益の大きさを増幅させているといえる。
表4-1 バイオガス装置の経済性(100家畜単位)
発酵物 |
家畜糞尿 |
家畜糞尿+
デントコーン |
家畜糞尿+
厨芥 |
生産量 |
|
|
|
ガス生産量(立方/年) |
54,750 |
118,380 |
160.350 |
発電量=供給電力量(kWh/年) |
109,226 |
255,848 |
346,556 |
熱生産量(実質量、kWh/年) |
82,125 |
253,392 |
260,568 |
費用 |
|
|
|
施設総投資額 |
168,000 |
220,500 |
379,500 |
補助金受給 |
53,000 |
72,000 |
53,000 |
投資総額 |
115,000 |
148,500 |
326,500 |
減価償却費(10年間)(DM/年) |
11,500 |
14,850 |
32,650 |
支払利子(投資負担額の1/2 5.2%)(DM/年) |
2,990 |
3,861 |
8,489 |
運転・保守費用(DM/年) |
10,080 |
13,230 |
19,590 |
労働費(DM/年) |
5,000 |
7,500 |
9,000 |
デントコーン生産費(休耕)(DM/年) |
- |
15,400 |
- |
年間総費用(DM/年) |
29,570 |
54,841 |
69,729 |
収益 電力販売(DM/年) |
21,845 |
51,169 |
69,311 |
熱利用(5千リットル暖房用油、80pf/リットル) |
4,000 |
4,000 |
4,000 |
廃棄物引取報酬(30DM/t 厨芥) |
- |
- |
14,400 |
休耕奨励金-デントコーン(DM/年) |
- |
4,200 |
- |
肥料価値(20DM/大家畜単位、DM/年) |
2,000 |
2,000 |
2,000 |
年間総収益(DM/年) |
27,845 |
61,369 |
89,711 |
利益(DM/年) |
-1,725 |
6,528 |
19,982 |
表4-2 バイオガス装置の経済性(150家畜単位)
発酵物 |
家畜糞尿 |
家畜糞尿+
デントコーン |
家畜糞尿+
厨芥 |
生産量 |
|
|
|
ガス生産量(立方/年) |
82,125 |
145,755 |
251,475 |
発電量=供給電力量(kWh/年) |
163,839 |
315,012 |
580,769 |
熱生産量(実質量、kWh/年) |
133,453 |
236,851 |
449,512 |
費用 |
|
|
|
施設総投資額 |
236,250 |
293,250 |
576,000 |
補助金受給 |
65,000 |
83,000 |
65,000 |
投資総額 |
171,250 |
210,250 |
511,000 |
減価償却費(10年間)(DM/年) |
17,125 |
2,025 |
51,100 |
支払利子(投資負担額の1/2 5.2%)(DM/年) |
4,452 |
5,4++ |
13,286 |
運転・保守費用(DM/年) |
14,175 |
17,595 |
34,560 |
労働費(DM/年) |
5,000 |
7,500 |
13,500 |
デントコーン生産費(休耕)(DM/年) |
- |
15,400 |
- |
年間総費用(DM/年) |
40,752 |
66,986 |
112,446 |
収益 |
|
|
|
電力販売(DM/年) |
32,767 |
63,002 |
12 |
熱利用(5千リットル暖房用油、80pf/リットル) |
6,400 |
6,400 |
6,400 |
廃棄物引取報酬(30DM/t 厨芥) |
- |
- |
21,600 |
休耕奨励金-デントコーン(DM/年) |
- |
4,200 |
- |
肥料価値(20DM/大家畜単位、DM/年) |
3,000 |
3,000 |
3,000 |
年間総収益(DM/年) |
42,167 |
76,602 |
134,966 |
利益(DM/年) |
1,415 |
9,616 |
22,520 |
表4-3 バイオガス装置の経済性(300家畜単位)
発酵物 |
家畜糞尿 |
家畜糞尿+
デントコーン |
家畜糞尿+
厨芥 |
生産量 |
|
|
|
ガス生産量(立方/年) |
164,250 |
346,050 |
481,050 |
発電量=供給電力量(kWh/年) |
327,678 |
747,900 |
1,039,669 |
熱生産量(実質量、kWh/年) |
266,906 |
562,231 |
781,706 |
費用 |
|
|
|
施設総投資額 |
441,000 |
608,600 |
998,400 |
補助金受給 |
99,000 |
145,000 |
99,.000 |
投資総額 |
342,000 |
463,600 |
899,400 |
減価償却費(10年間)(DM/年) |
34,200 |
46,360 |
89,940 |
支払利子(投資負担額の1/2 5.2%)(DM/年) |
8,892 |
12,053 |
23,384 |
運転・保守費用(DM/年) |
26,460 |
36,516 |
59,904 |
労働費(DM/年) |
5,000 |
8,750 |
27,000 |
デントコーン生産費(休耕)(DM/年) |
- |
44,000 |
- |
年間総費用(DM/年) |
74,552 |
147,679 |
200,228 |
収益 |
|
|
|
電力販売(DM/年) |
65,535 |
149,590 |
207,933 |
熱利用(5千リットル暖房用油、80pf/リットル) |
8,000 |
8,000 |
8,000 |
廃棄物引取報酬(30DM/t 厨芥) |
- |
- |
43,200 |
休耕奨励金-デントコーン(DM/年) |
- |
12,000 |
- |
肥料価値(20DM/大家畜単位、DM/年) |
6,000 |
6,000 |
6,000 |
年間総収益(DM/年) |
79,535 |
175,580 |
265,133 |
利益(DM/年) |
4,983 |
27,901 |
64,905 |
|