8)バイオガスプラントの導入事例

 以上みてきたように、ドイツでは家畜糞尿と有機廃棄物を嫌気発酵させてバイオガスを回収し、そのガスによって電気と熱を得る(コジェネレーション)プラントの建設が増加している。密閉空間で処理をするので悪臭が少なく、メタンの放散を防止できるという環境保全上のメリットがあることと、生産された電気と熱が自家利用できるうえに、余剰部分を販売できるという経済的メリットが存在する。とくに熱需要の多い養豚経営にとっては、糞尿処理と合わせて魅力が多いものである。ここでは、バイオガスプラントを導入したP経営の事例を紹介したい。

 P経営はヘッセン州で養豚と残飯回収を統合した経営を営んでいる。

 養豚は、豚舎が二棟ありそれぞれ620頭規模のものである。飼料給与は、リキッドフイーダーによって行われており、加熱処理された残飯、穀物、ミネラル添加材等の混合割合が最適化プログラムによって電子制御されている。全飼料に占める残飯飼料の割合は、現在75%となっている。

 経営者のP氏は、1958年からすでに残飯収集と飼料化を手がけており、その経験は豊富である。P経営にとって残飯収集業務は、いわば中小規模の運送業者のようなものとなっており、多くのレストランヘは、少なくとも週1回は収集に行かなくてはならない現状にある。毎日の収集を要求してくる相手も少なくない。収集の頻度が高いうえに、休暇や休日が異なるため、収集ルートの設定は容易ではなくかなり時間を要することになる。

 バイオガス施設では、豚舎から出た糞尿、油脂、衛生的な残飯、麦焼酎の搾り粕そして公共地等の管理後の剪定技葉などを処理しているが、その処理総量は、年間約3,737トンとなる。施設では一日当たり約1000立法メートルのバイオガスを発生させることができるが、電熱併給システム(CHP)によって年間約73万kWhの電気と約1,387百万kWhの熱エネルギーに転換されるのである。

 表8−1は、P経営の関係施設における必要熱量と必要電力量を、表8−2は総熱量と総電力量のエネルギー収支状況を示したものである。

表8−1 熱と電力の必要量(kWh/年)

必要箇所 必要熱量 必要電力量
施設ホール 21,900 11,315
飼料化工程 52,300 12,774
20,920 6,876
127,936 85,662
アルコール蒸留 22,590 -
27,108 -
バイオガス装置 788,400 10,493
豚舎 298,978 26,644
住宅 57,640 31,212
1,417,772 185,264

表8−2 熱量と電力の需給表(kWh/年)

必要熱量 1,417,772
生産熱量 1,387,000
不足熱量 85,952
必要電力量 185,264
発電電力量 730,000
売電量 546,260

 表8−1によると、P経営では全体で年間141万kWの熱量と18万5千kWhの電力が必要である。このうち表8−2にみられるように、必要総熱量の97.8%にあたる138万kWhがバイオガスの燃焼によって得られており、不足分の熱量はわずか8万5千kWhとなっているのである。次に電力をみてみると、バイオガスプラントによる発電で73万kWの電力が生み出され、必要な電力量18万5千kWhを自家消費した後の余剰電力54万kWを電力供給株式会社に売っているのである。この売電額は年間約11万マルクとなっている。 以上、必要なエネルギーと産出するエネルギーの関係をみればわかるように、経営内で必要とされるエネルギーはバイオガスプラントによってまかなわれており、自給できていることが確認される。こうした意味では、P経営は、ゴミ(残飯)処理のコンセプトとエネルギー供給を結合させた農業複合サービス事業体とみることができる。

図11

 図11は、P経営にかかわる物質とエネルギーの循環を示したものである。P経営は、残飯、調理くず、食品加工くず、醸造の搾り粕などの有機廃棄物を引き取り、それを豚の飼料とバイオガス生産に仕向けているのである。飼料化とバイオガス化と結合しているところは、養豚経営ならではの利点である。 また、剪定技葉や緑地の刈り草も引き取り、バイオガス生産に利用している。こうして得られたバイオガスによって電力と熱を生み出すのである。また、バイオガスの発酵残渣は肥料として農地に還元している。このように、P経営では、地域の有機廃棄物の飼料化とエネルギー化を行うリサイクラーといえる。