ドイツにおける資源循環型畜産の現状

名古屋大学農学部生命農学研究科
食糧生産管理学研究室 助教授 淡路 和則

要 約

 20世紀は、大量生産・大量消費という形で物質的豊かさを享受するようになった世紀であった。しかし、20世紀が21世紀に残した最重要課題が環境問題である。

 西暦2000年は、「環境元年」と言われ、我が国において循環型社会形成のための諸施策が重点的に整備された年である。畜産と関わりがあるものは、「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」と「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律」である。

 家畜の糞尿の利用については、堆肥化が一般的であったが、悪臭対策、メタンの放散防止そしてエネルギー回収という点から最近はバイオガス利用に注目が集まっている。

 豚は、残飯や食品工業の加工残渣物を飼料として利用できる優れた家畜である。

 循環型社会の中での養豚の位置づけのキーポイントとして、

(1)食品廃棄物の飼料化
(2)糞尿利用としてのバイオガス化

 の二点が浮かび上がってくる。リサイクル先進国のドイツにおいて食品廃棄物の飼料化を行っている企業の事例とバイオガスプラントの事例を紹介する。


ドイツの養豚

 ドイツは世界有数の養豚国である。国民一人当たりの年間供給量でみると、日本の3.4倍になっている。飼養規模を見ると5頭に満たない極めて小さな規模のものが約4割を占めているのである。しかし、飼養頭数でみると国内の肥育豚の約4割が600頭以上の大規模経営によって飼養されている。産業として養豚をみた場合、大規模な養豚経営である。

リサイクル社会をつくる法的仕組み

 ドイツでは、ゴミ問題に対して、いくつかの法律が1970年代、80年代に制定されたが根本的な解決には至らなかった。リサイクルを進めることによって廃棄物の発生抑制が問題とされなくなったのではない。あくまでも廃棄物の発生を抑制することが最重要なのである。 廃棄物の対応の順位を整理すると、発生抑制、利用(リサイクル)、最終処分、となる。

食品廃棄物の飼料化

 紹介する事例は、食品廃棄物から飼料を生産し商品として販売している企業(N社)のである。 N社が製造した飼料が養豚経営、肉牛経営など家畜生産の現場で利用され、できた農畜産物が原料として食品加工工場に供給される。 N社は、もともとは大規模な養豚を営む経営であり、同時にビール工場、乳製品加工工場、馬鈴薯加工工場の廃棄物の収集・処理も行っていた。 30年ほど前に小規模な配合飼料の工場を構え、配合飼料の製造と販売を行うようになった。リサイクルのアイディアおよび必要なノウハウは、養豚、食品工業の残渣物処理、配合飼料生産という自らが携わっていた3つの事業の経験から得られたものである。食品残渣を原料に飼料生産を行い、その製品を畜産経営に販売するN社は、リサイクル業界のなかでも革新的な企業として注目されている。

バイオガス化

 一般的なバイオガスプラントでは、家畜糞尿を嫌気発酵させメタンガスを回収し、そのメタンガスで発電機を稼動させ電力を得ると同時に廃熱を利用するという電熱併給のシステムになっている。また、嫌気発酵処理が行われた後の消化液は、液肥として利用される。

ドイツにおけるバイオガス

 利用の歴史第1次ブームは、第二次大戦後のエネルギー不足が契機となった。第2次ブームは、1973年のオイルショックが契機となった。第3次ブームといわれるなかで注目されているのは電力供給である。バイオガスを使った発電が脚光を浴びだしたのは1990年の電力供給法の導入であった。環境に負荷をかけない発電方法で供給された電力を相対的に高価格で買い上げる義務を電力供給会社に課す政策を打ち出したのである。

バイオガスプラントの数の推移

 1990年当初では100基程の水準であったのものが、1999年には800基を数えるに至っている。2000年は、前年に比べて400基の増加をみており、1999年から2000年にかけて5割近い伸びとなった。

バイオガスプラントのメリット

(1)電力生産による電気の自家利用とおよび売電による収入
(2)熱利用による燃料油の節約
(3)有機廃棄物利用の場合の廃棄物引取収入
(4)脱離液の利用

バイオガスプラントの収益性を高めるには

(1)バイオガスの発生量を増大
(2)副収入の増大といった方策が考えられる。

バイオガスプラントの経済性

 バイオガスプラントヘの投資が引き合う条件として、少なくとも100大家畜単位の糞尿があり、有機廃棄物と混合発酵できること、が挙げられている。