飼料用イネ収穫機械の開発と利用

 三重県科学技術振興センター畜産研究部では、飼料用イネの収穫調整用作業機械を民間会社であるタカキタと共に開発しました。この機械は水稲をホールクロップサイレージにして、牛の飼料として給与することにより、飼料稲の普及と米の生産調整にも寄与するものであり、小規模な水田、条件の悪い軟弱な水田でも機械化ができるように開発されたものです。
 ここで以下に紹介するのは、三重県科学技術振興センター畜産研究部浦川修司氏が、講演された内容の概略です。
 なお、詳細な資料をご希望の方には、無償で配付させていだだきますので、お申し付けください。

飼料イネの生産にかかる諸要因
飼料イネに関する研究成果と 地域営農への導入のための方策と展望

三重県科学技術振興センター畜産研究部
浦 川  修 司

はじめに

 世界的な見地からすれば、わが国の食料自給率は低く、米の生産調整が強化されている昨今と併せて考える時、畜産農家にとっても耕種農家にとっても、飼料イネの栽培・給与は重要である。


1、飼料用イネ専用収穫機の開発の必要性

 水田を利用した飼料作物の生産で問題となるのは、湿田であるために作業が思うように行いにくい点や機械体系を取り入れようとすると既存のものだと、畦畔を考慮されていない機械が多く、このことが作業性を低くしてしまっていた。
 三重県では民間の機械メーカーと共同開発を進め、コンバインを基本とする飼料イネ専用ロールベーラーと自走式ベールラッパを製作した。開発された機械は従来の機械に比較し、他の飼料作物への利用という面で制限を受けるが、日本型の畦畔をともなう水田、湿潤な条件が多い水田で操作性に優れ、耕種農家でも容易に操作運転が可能である。


2、飼料用イネ専用収穫調整機械の概要と特徴

(1)飼料イネ用ロールベーラ

1)飼料イネ用ロールベーラの概要と特徴
 本機は自脱型コンバインの刈取部、走行部、操作部をそのまま利用し、脱穀部の替わりにロールベーラアタッチメントを搭載したダイレクトカット方式のロールベーラである。走行部にはゴムローラを利用していることから、軟弱圃場での作業に適している。
 イネを約15〜20cmに切断してからロールを成形するため、家畜給与時における解体作業も容易に行える。
 成形した飼料イネのロールベールは、黄熟期刈りで水分が60%程度の場合、ロール1個の重さは250〜300kgとなり、10a当たり9個〜10個の収量となる。
2)飼料イネ用ロールベーラによる成形精度と損失率
 本機は自脱型コンバインの刈取り、搬送部を利用していることから、ロールの片側に穂部が、反対側に株元が集中する傾向はあるものの、でき上がったロールには穂部、中央部、株元部の直径に差はなく、発酵品質にも問題はない。
 飼料イネを高栄養の粗飼料として利用するためには、収穫調整時にモミ部分の損失量を極力低くすることが重要である。従来のロールベール体系では、刈り落とし、反転、集草、拾い上げ、梱包時等の作業があり、各作業時にモミの損失が見られたが、本機はダイレクト収穫であり、立毛のイネを刈り取り、ロール成形するため損失率は低くなる。
3)飼料イネサイレージの発酵品質の特性と発酵促進のためのオプション装備
 イネはサイレージ発酵性が乏しく総酸の生成量が少ない。良質なサイレージ発酵は、高い糖分量と適当な水分含量により決まります。飼料イネの場合、可溶性糖類は子実であるモミは強固な籾殻で覆われていることから、サイレージ発酵に利用されにくいと考えられる。  こういったことから、刈り取り時に発酵の向上と安定化のために、本機にはオプションとして、液剤添加装置の装着をできるように改良した。

(2)自走式ベールラッパ

1)自走式ベールラッパの概要と特徴
 本機も走行部にゴムクローラを利用しており、軟弱な圃場での作業に適している。本機はロール積み込みのためにアームを装備しており、圃場に放出されたロールを拾い上げ、ターンテーブルへ積載する他、ベール後のロールを水田から畦畔を越えてトラックへ積載する機能をもっている。
 ロールの拾い上げから連続する作業の操作性は、常にロールを見ながら作業が可能なため容易に行うことができる。

(3)飼料イネ用ロールベーラと自走式ベールラッパの作業体系

1)好条件圃場での組作業と作業能率
 ロールベーラ作業において成形終了後はトワインで結束する必要がある。本機ではこの作業に焼く35秒を要する。この時間は収穫作業が中断される時間であり、作業全体時間の約30%を占めている。ロールベーラの作業時間は10a当たり約25分である。
 自走式ベールラッパは飼料イネ用ロールベーラが圃場に放出し分散しているロールまで移動し、積載した後に密封作業を行いながら圃場内を運搬車の駐車位置まで移動して、ロールを荷降ろす。このような作業体系で密封から運搬車への荷降ろしまでの作業時間は10a当たり約35分である。
2)軟弱圃場における組作業の特徴
 自走式ベールラッパは、軟弱圃場の場合、成形されたロールをロールベーラから直接(圃場に落とすことなく)荷受けできる機能も持っている。この機能のためにロールが濡れたり、土砂が混入したりしることがなく良質サイレージの生産ができる。

(4)ロールベールハンドリング機械

 ベールグリッパの低コスト化を図るために簡易ベールグリッパを開発した。本機は固定把持アームと油圧シリンダにより開閉する把持アームからなる。本機で横向きに置かれたロールを縦置きするためには、ロールの中央部をややずらした位置を挟みこむと、重心がずれることにより自然にロールが回転することとなる。

(5)一連の開発機械による作業体系

 以上の開発した機械(飼料イネ用ロールベーラ、自走式バールラッパ、簡易ベールグリッパ)を利用することで、圃場条件に影響されずに、収穫から梱包、密封から輸送、保管までの一連の作業のシステム化が図られた。


3、飼料イネの生産費推定モデルも概要

(1)モデルの基本となる飼料イネ用ロールベーラと自走式ベールラッパの効率的組作業法

 飼料イネの収穫調整作業に両機を利用する場合、各機械の特性(自走式、全面刈り、追従作業等)を把握し、両機が効率的に組作業を行うことが全作業時間の短縮にもつながり、低コスト化が図られることになる。
 飼料イネ用ロールベーラは全面刈りであり、立毛イネを圃場のどの位置から刈り取りをしても問題なく、結束時も停止する必要はない。このことから、飼料イネ用ロールベーラの結束時間を利用して、出来る限り圃場の入り口に近い位置へロールを放出することが、作業時間を短縮することとなる。

(2)収穫調整に要する作業時間の推定

 飼料イネ用ロールベーラ、自走式ベールラッパの作業時間はほぼ正確に把握できている。ここで実際の利用にあたり考慮しなければならないのは、できあがったロールの運搬にかかる時間である。トラックの輸送能力、速度等を勘案すると、圃場からロール保管場所までの有効輸送距離はおよそ1kmである。

(3)三重県における飼料イネ導入地域の事例

 生産形態は、

(1)畜産農家が生産から栽培、収穫、運搬までを自ら行う自己完結型、
(2)耕種農家が栽培管理を行い収穫以降の作業を畜産農家が行う作業分散型、
(3)水稲受託農家が栽培管理から運搬作業まで行う完全流通型に大別される。

 上記(1)の場合、畜産農家が牧場から比較的近い圃場で飼料イネの栽培を行ったことから作業時間に無駄がなく運搬ができた。(2)の場合、耕種農家に近い圃場に飼料イネが栽培されるため、畜産農家からは遠く、運搬に時間がかかり、結果として飼料イネ用ロールベーラに待ち時間が生じた。これらの時間を調整するには、圃場の近くに収穫したロールを一旦保管できるような施設(ライスセンターなど)を有効に利用していくことも今後は考えなければならない。

(4)機械費低減のための飼料用イネ専用機の飼料麦への利用

 本機を導入する場合、畜産農家は購入粗飼料との価格比較を行う。機械にかかる費用を低減するひとつの方法として、飼料イネ収穫以外への使用が考えられる。しかし、本機の構造上、あらゆる飼料作物に汎用性があるとはいえず、対応できる草種は限定される。

(5)飼料イネ導入計画支援モデルの概要

 Excelで構築したシステムでは、圃場の面積、収量、圃場からの輸送距離等生産に係る諸条件を入力することにより、経費が推定され各経費と生産量からTDN単価の推定ができる。