有限会社一志ピックファーム
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![]() 市内の農業は、水稲が中心ではあるが、ナシやウメといった果樹や伊勢茶と称されるお茶の産地でもある。 平成19年畜産統計調査によると、市内の畜産戸数は乳用牛13戸(1戸平均飼養頭数151頭)、肉用牛21戸(1戸平均飼養頭数176頭)、養豚8戸(1戸平均飼養頭数3,163頭)、採卵鶏9戸(1戸平均飼料羽数10万8,000羽)である。1戸当たりの規模を単純平均するとそれぞれの頭羽数は大規模となるが、大規模農事組合法人が含まれていることによるものである。 |
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有限会社一志ピックファームが現在の一志農場の経営を始めたのは昭和60年で、当時の三重県の種雌豚飼養規模が1戸当たり約50頭だったのに対し、同社は470頭と群を抜いた規模であった。これは養豚業を企業として捉え、より高度化、効率化を目標としたためである。種雌豚にはケンボローの原種豚を輸入。自社内で一貫生産用種雌豚の生産も行い、自社内一貫生産体制を確立した。 直販にも取り組んでおり、別会社を設立し販売部門を管理、顧客への配達を行ってきた(直販を担当していた妻の死去により、現在は中断)。 従業員の教育をはじめ、他事業所、行政、海外等からの研修生受け入れにも積極的で、現場実習を通して関係者のスキルアップにも尽力している。 |
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表:経営実績(平成26年) |
経営の 概況 |
労働力員数 (畜産・2千hr換算) |
家族構成員 | 1.4人 | |
従業員 | 11.3人 | |||
種雌豚平均飼養頭数 | 517.0頭 | |||
肥育豚平均飼養頭数 | 4,920頭 | |||
年間子豚出荷頭数 | 0頭 | |||
年間肉豚出荷頭数 | 11,475頭 | |||
収益性 | 所得率(構成員) | 11.3% | ||
種雌豚1頭当たり売上原価 | 645,861.3円 | |||
生産性 | 繁殖 | 種雌豚1頭当たり年間平均分娩回数 | 2.34回 | |
種雌豚1頭当たり分娩子豚頭数 | 23.9頭 | |||
種雌豚1頭当たり子豚離乳頭数 | 23.2頭 | |||
肥育 | 種雌豚1頭当たり年間肉豚出荷頭数 | 22.2頭 | ||
肥育豚事故率(離乳時からの事故率) | 4.4% | |||
肥育開始時 | 日齢 | 22日 | ||
体重 | 6.2kg | |||
肉豚出荷時 | 日齢 | 176.2日 | ||
体重 | 115.1kg | |||
平均肥育日数 | 154.2日 | |||
出荷肉豚1頭1日当たり増体重 | 0.706kg | |||
トータル飼料要求率 | 3.2 | |||
肥育豚飼料要求率 | 2.9 | |||
枝肉重量 | 74.0 | |||
販売価格 | 肉豚1頭当たり 平均価格 |
40,894kg | ||
枝肉1kg当たり 平均価格 |
552.6円 | |||
枝肉規格「上」以上適合率 | 62.3% |
【現在の防疫体制にも活かせる豚舎設計、配置】 大規模農場の設計に当たっては、特に家畜防疫について注意を払った。豚舎そのものの設計では、豚や人の移動(動線)を重要なポイントと捉え、動線を一方通行にすることを基準にして豚舎を配置した。 また、建設当初の豚舎は陽圧換気方式だったが、換気の制御をより自動的かつ適切に行うため陰圧方式に変更するとともに、クーリングパッドを採用し、夏季の快適性を向上させてきた。 【作業の分散化と責任制】 農場での作業を(1)種付け、(2)分娩・哺育、(3)子豚育成、(4)肥育、(5)環境保全、(6)営繕・会計に区分し、担当作業を特化させることにより、各従業員のスキル、責任感を向上させることで人材育成を図ってきた。 【作業のマニュアル化】 大規模化された農場を管理するには、データ管理が重要である。このことを移転当初から徹底して意識し実践してきた。作業のマニュアル化については、当初からHACCPの管理方法を基本として作成し、認証に向けてそのまま活かせるようなレベルで実行してきた(現在、同推進農場の指定に向けての作業中である)。 各作業の実施結果(豚の生産成績、健康状態、移動状況、その他全般)は、現場でメモしたものを休憩室に持ち帰り、一定の書式に記入した後、コンピュータにデータとして入力・保存し、次作業への準備データとして活用したり、生産成績の検討に用いたりしている。 【生産性の向上】 高い生産性を達成している要因の一つは、従事する社員の高いスキルでもあるが、家畜そのものが持つハイレベルな能力にも支えられている。当事例では、創業当初から、長期にわたり「ケンボロー」を利用してきた。イワタニケンボローからはGPを導入し、自社で繁殖豚を生産した。 近年、他系統の種豚では改良がなされ、今までにない驚異的な生産成績を上げている事例のあることは承知しつつも、当事例のこれまでの家畜生産性については、各事項が高位平準化されている。このような経緯と状況の中で、平成26年12月ならびに平成27年4月には、新規の優良豚(トピックス)をGPとして50頭導入し、新たな生産性の向上を目指すこととした。 |
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肥育豚舎 | 防疫対策のため、農場内に侵入する車両には噴霧に肥育豚舎 よるゲート消毒を実施している。 |
【従業員教育等】 社是として、(豚肉を)「作った人も幸せ、食べた人も幸せ」を掲げている。国民の食料を生産する重要な仕事であるという視野に立ち、毎日の作業に当たるように従業員に指導している。 技術的なスキルアップについては、3ヵ月に1度、外部コンサルタントによる技術指導を受けている。データを基にした指導とともに現場を巡回した上での課題の指摘を受けている。 農場では、いわゆる体験就業も受け入れている。そのパターンは、中学生の体験学習的なものから、他の養豚農場へ就業する前の訓練として、あるいは、飼料メーカー等の新入社員の教育の場として、さまざまな要望に応えてきた。レベルの高い従業員には、これら研修生の指導役を与えることによって中堅職員の立場を意識させる効果も考えている。また、研修生には厳しくとも正しい評価を加えられるように心がけている。 責任を持てる社員を育てることを目的に、基本的には「任せる」ことにしている。褒める時には全員の前で、叱責する時には自信を失わないように気遣いながら、社員の結束を高めることに努力している。 ![]() 食品メーカーの工場に近く、その残さ物を飼料として利用してきた。供給される材料は、ラーメン粕(乾物)、コーン残さ等である。食品残さの利用を始めるに当たっては、県の畜産研究所と共同歩調を取り、実証展示としての役割も担ってきた。豚肉生産では、前掲の種豚の資質も大きなポイントではあるものの、この資質を活かすための飼料について試行錯誤を繰り返してきた。給与してきた飼料は、豚肉の脂肪にうま味を増すために役立ってきた。 おいしさの向上を目的に小麦の配合割合を高めたり、飼料費の低減も目的として、食品残さの利用を継続し、また、新たに飼料用米の利用も始めた。 しかし、これらの飼料構成では、理想とするほどのコスト低減にはつながらず、今後の課題にもなっている。 【直接販売】 平成16年からは、直接販売にも取り組んできた。自信を持って生産した商品を直接消費者に届け、ダイレクトな感想を得られることに喜びを感じた。販売に当たっては、妻が別の販売会社の代表として直販に当たった。全農ミートセンターでカットされた部位を自社内でスライスし、個々の顧客の要望に応えてきた。 しかし、この直販については、担当者であった妻の体調不良により、平成24年に縮小、中断し、更には死去により中止せざるを得ない状態となった。 【環境保全】 この部門にも専属の職員を配置し、ふん、尿ともに適切な処理を行い、生産した堆肥の約半分は、近在の地域(車で10分強)において、マニアスプレッダ(たい肥散布車)による散布サービスを行っている。 ![]() 豚舎で発生したふん尿は、搬出後、固液分離し、ふんは撹拌により堆肥化している。発酵には稲作の副産物として発生するもみ殻を譲り受け、副資材として使用している。 臭気対策の一つとして、EM菌を飼料に混ぜ、豚に摂取させることにより、ふんの臭いが抑えられ、良質の堆肥が生産できるようになった。 肥育豚舎の一つは、踏込式でありオガコを敷料として利用している。 (2)汚水処理 各豚舎から排出される汚水は、自動スクリーンおよび凝集分離脱水装置で一次処理をした後、生物化学的浄化法(回分式活性汚泥処理)により、二次処理し、基準をクリアした処理水を放流する。 |
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【堆肥化と地域との連携】![]() この方式での耕畜連携については、今後も継続していく計画である。 なお、この圃場から出るもみ殻については、ライスセンターを通じて入手し、堆肥処理過程で利用し資源の循環を行っている。 これとは別に近在の小量利用者、家庭菜園での利用者等に対しては、敷地外(入場ゲートの外)に設置した配布所で無償譲渡している。この場合は、積み込み等の作業一切は、利用者に任せている。 【地域のブランド化への貢献】 自社ブランドとして「ヘルシーポーク愛」を直販に取り組んできたが、前述の状況となり中止となった。一方、JA全農三重県本部が推進する「みえ豚」の生産農場でもある。 【ベンチマーキングによる勉強会の拡大】 管理獣医師からの提案により、生産性をさらに上げることを目的に、平成24年ころからベンチマーキングによる勉強会を開催し、この手法による勉強法を養豚仲間に波及させ、現在、18人ほどの仲間とともに、成績の向上を目指している。 これらの仲間を初めとし、三重県養豚協会を主軸とする仲間には、最新の情報を伝達することも惜しみなく行っている。 【仲間へのボランティア活動】 平成15年からの2年間は三重県養豚協会の会長に就任し、退任後もリーダーシップを活かして、会員のまとめ役として信望を集めている。 会長任期中、会員の豚舎が火災に遭うという事故が発生した際には仲間に声をかけ、焼死豚の搬出・埋却作業、あるいは消火後の豚舎の後片付けに率先して当たった。また、退任後に台風被害により会員の豚舎に通じる山道が崩壊した時にも、仲間に声をかけ、重機をもって復旧に当たる等の活動に従事した。県の養豚戸数は、59戸と限られた戸数であるだけに、会員間の絆も強く、相互の信頼関係を強めている。 |
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妻であったYさんは、平成18年に発足した三重の畜産女性の会の創設メンバーとして、他の畜種の女性たちとも積極的に交流を行った。 交流の中では、豚肉の直販についてそれぞれが持つ課題について意見を交わしたり、それまで交流のなかった他畜種や異業種の女性たちとも交流を深めた。 こういった活動に加わることに夫(社長)の理解は深く、活動的な日々を送ることができたが平成26年に急逝した。 従業員の休暇は毎週1日、また、月に一度の連休や年末年始の5日間、盆の3日間は交代により取得するように推奨し実行している。また、地道な取り組みではあるが、従業員の誕生日にはバースデーケーキをプレゼントすることを継続している。 |
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当事例には、血縁の後継者がいないことから、会社の将来をいわゆる他人に任せることになる。このために自らの養豚人生にラストスパートをかけて、経営基盤を再度構築し、自信をもって譲渡し、安心感を持って引き受けてもらえるように準備を始めている。 | ||
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養豚業を成功させる三つの要素として、豚の資質、給与飼料、飼育者のスキルを上げることが挙げられる。特に、給与飼料については、おいしい豚肉を作るために試行錯誤を繰り返してきた。県の畜産研究所と連携し、実証展示農場として相互に支援してきた。 また、ベンチマーキングに代表されるように、経営の分析改善に取り組んできたのは、管理獣医師である。情報の分析と他農場等との成績の比較は、魅力的な情報であり指導であった。 更に、現在、正に取り組み中である農場HACCP認証取得については、県の家畜保健衛生所を中心としたチーム編成により支援を受けている一方、中央畜産会が開催する農場指導員養成研修を従業員に受講させ、スキルアップを図ることにしている。 |