~伊勢志摩の自然豊かな中で大切に育てました~
養豚経営 有限会社河井ファーム肉よし
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![]() 有限会社河井ファーム肉よしの所在地である三重県志摩市は、熊野灘に突き出た志摩半島に位置し、市全域が伊勢志摩国立公園内に含まれ、伊勢志摩サミットが開催された地であり、風光明媚な観光の名所となっている。海岸線はリアス式海岸で太平洋に面しており漁業が盛んで、アワビなどの海女漁や世界に先駆けて発達した真珠の養殖が知られている。 |
(表1)経営・活動の推移 |
年次 | 作目構成 | 飼養頭数 | 経営・活動の内容 |
平成12年 | 養豚 | 繁殖雌豚 120頭 |
経営主の金昭氏、養豚経営に就農 |
平成14年 | 〃 | 繁殖雌豚 150頭 |
汚水の浄化処理開始(浄化槽建設) 飼料共同購入組織「やまびこ会」加入 |
平成15年 | 〃 | 〃 | 繁殖舎建設(200頭収容) |
平成16年 | 〃 | 〃 | 分娩舎建設(60房) |
平成17年 | 〃 | 〃 | 離乳舎建設(子豚1,060頭収容) 金昭氏が代表取締役就任(経営継承) |
平成18年 | 〃 | 繁殖雌豚 180頭 |
肥育豚舎建設(肥育豚360頭収容) 農場独自の衛生マニュアルの策定 |
平成19年 | 〃 | 〃 | 妻が養豚経営に参画(繁殖部門) |
平成23年 | 〃 | 〃 | 肥育豚舎建設(肥育豚360頭収容) |
平成27年 | 〃 | 〃 | 肥育豚舎建設(肥育豚480頭収容) |
平成28年 | 〃 | 〃 | アコヤ貝粉末給与開始 オンラインショップ開設 |
平成30年 | 〃 | 〃 | 県内大手精肉店との取引開始 |
令和元年 | 〃 | 繁殖雌豚 200頭 |
豚熱、PEDの流行による増頭 |
令和3年 | 〃 | 繁殖雌豚 170頭 |
モルト粕サイレージ給与開始 |
令和4年 | 〃 | 繁殖雌豚 150頭 |
自社ブランド豚の名称を 「伊勢志摩パールポークほろよい」に改名 |
(表2)経営実績(令和3年度) |
経営の 概況 |
労働力員数 (畜産・2千hr換算) |
家族構成員 | 1.2人 | |
従業員 | 3.4人 | |||
種雌豚平均飼養頭数 | 170.3頭 | |||
肥育豚平均飼養頭数 | 924.4頭 | |||
年間子豚出荷頭数 | 0頭 | |||
年間肉豚出荷頭数 | 4,206頭 | |||
収益性 | 所得率 | 33.9% | ||
種雌豚1頭当たり生産費用 | 585,687円 | |||
生産性 | 繁殖 | 種雌豚1頭当たり年間平均分娩回数 | 2.32回 | |
1腹当たり分娩子豚頭数 | 12.5頭 | |||
種雌豚1頭当たり年間分娩子豚頭数 | 29.0頭 | |||
1腹当たり哺乳開始子豚頭数 | 11.2頭 | |||
種雌豚1頭当たり年間哺乳開始子豚頭数 | 26.0頭 | |||
1腹当たり離乳子豚頭数 | 10.5頭 | |||
種雌豚1頭当たり年間離乳子豚頭数 | 24.4頭 | |||
肥育 | 種雌豚1頭当たり年間出荷頭数(肉豚) | 24.7頭 | ||
肥育豚事故率(離乳時からの事故率) | 7.2% | |||
肥育開始時 | 日齢 | 70.0日 | ||
体重 | 35.0kg | |||
肉豚出荷時 | 日齢 | 160日 | ||
体重 | 112.0kg | |||
平均肥育日数 | 90.0日 | |||
出荷肉豚1頭1日当たり増体重 | 0.856kg | |||
トータル飼料要求率 | 2.96 | |||
肥育豚飼料要求率 | 2.67 | |||
枝肉重量 | 72.4kg | |||
販売価格 | 肉豚1頭当たり 平均価格 |
36,894円 | ||
枝肉1kg当たり 平均価格 |
509.6円 | |||
枝肉規格「上」以上適合率 | 61.7 % |
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【豚の健全性に配慮した経営規模の実現】 令和5年現在の経営規模は、種雌豚150頭を飼養し、年間約4,000頭を出荷する繁殖肥育一貫経営である。 平成12年に就農してから計画的に畜舎の整備を進めていたが、令和元年には豚熱の流行による影響等により種雌豚が一時200頭規模となり、飼養密度が上がったことで事故が多く非効率な状況となってしまった。 そこで、持続的な適正規模による安定生産を考え、この3年間で種雌豚を150頭規模まで減少させ、週80頭程度の出荷とすることで、事故率は7%台から現在の4%台に改善した。 【事業承継と自社ブランドの取り組み】 金昭氏は、大手流通スーパーでの生鮮部門の販売経験を経て、素人状態で父親の養豚経営に就農したが、前職で培ったデータ収集・分析をはじめ安全安心で美味しいものは消費者の支持を得ることを体現していることから、その姿勢をそのまま養豚現場に持ち込んでいる。 主な取り組みは、就農当時から民間の畜産コンサルタントの指導を仰いで進めた畜舎整備、県の家畜保健所の協力を得て作成した農場独自の衛生対策マニュアル、そして、養豚仲間で組織する「やまびこ会」で設計されたオリジナル飼料をベースに平成28年からアコヤ貝の粉末給与、令和3年からエコフィードの活用としたモルト粕サイレージの給与を経て、パールポークのブランド力を高めた「伊勢志摩パールポークほろよい」を新たに立ち上げ、地域の高品質な豚肉として提供している。 |
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【オリジナル三元豚の自家生産】 近年主流の多産系の種豚を導入せず、肉質を重視した大ヨークシャー(W)種の雌とランドレース(L)種の雄を掛け合わせた雌を種雌豚として、種雄豚のデュロック(D)種を交配してWLDの三元豚を生産している。種付けは90%を人工授精で実施し、適期的確な種付け作業により種雌豚1頭当たりの成績は、県指標を上回る。またメリットとして外部から移入する疾病の予防及び導入経費の削減をはじめ、希少価値の高いWLDの三元豚 は枝肉取引価格においても有利にはたらき収益性を高めている。 |
![]() モルト粕サイレージ給与 |
【飼料の給与】 素人状態で就農した金昭氏であったが、持ち前の勤勉性もあり畜産コンサルタント、県家畜保健衛生所の指導と合わせ、就農してから加入した東海・北陸の養豚仲間で作る「やまびこ会」での活動が経営主にとって大きかった。広域な養豚仲間との情報交換や勉強会で技術を積み上げたことはもとより、共同購入の強みを活かした配合飼料は、全粒粉砕トウモロコシを使用したオリジナル飼料となっており、さらに飼料米やエコフィードの活用として一部に食品残さを配合し、質・コスト面においても満足の得られるものとなっている。また「パールポーク」のブランド力を高めるため、子豚の骨格を形成する時期に合わせ真珠養殖に使われたアコヤ貝の粉末を給与してカルシウム等のミネラルを強化し、肥育豚の仕上げ期には、モルト粕サイレージを給与することによって飼料の嗜好性を高め、出荷体重、肥育日数等の生産効率の向上や肉質の改善につなげている。特に厚脂による格落ちが改善され、上物率は60%台をキープしている。 【衛生対策とその効果】 防疫を前提とした衛生対策は、農場独自の衛生対策マニュアルに沿って徹底されており、どこかで問題が発生すれば、すぐに対応できる体制が整い、安全な豚肉を生産できるという自信につながっている。 特に自家産の種雌豚の育成は、外部からの感染症リスクを抑えることにより子豚、種雌豚ともワクチン接種の省力化につながった。また、乳酸菌が含まれるモルト粕サイレージの給与を始めてから豚の体調が良くなり、肥育豚舎での抗菌性物質の使用をやめる等、衛生費の削減にもつながっている。 【飼育環境の整備とAW】 畜舎設計は、繁殖畜舎を農場奥に、肥育畜舎を入口付近に配置することによって豚の移動を一定方向とする無駄のない動線とした作業の効率化とエリアを明確に区分することによる安全性を構築した。その結果、飼育環境が整い、アニマルウェルフェア(AW)に配慮して子豚の歯切りをやめるなど、哺乳期の種雌豚や子豚に対する痛みやストレスがない繁殖環境と作業の省力化につながっている。 |
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【畜産環境対策】 環境対策は、ふん尿分離方式を進め、ふんの堆肥化には密閉縦型コンポスト、尿汚水を処理する浄化槽を整備している。以前は臭気対策としてモミガラを外部から収集し利用していたが、衛生上の観点から現在は、外部搬入のリスクを考慮して使用していない。替わって、尿汚水は畜舎から配管を通し直接浄化槽へ流れるよう整備すると共にモルト粕サイレージ給与の効果として臭いが低減されるようになった。 堆肥は、農場にある畑作自家消費以外はすべて袋詰めを行い、自社店舗の横で販売している。堆肥は地元農家の野菜栽培に利用され、生産された野菜は、自社店舗で地場の野菜として販売している。 |
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店舗横の堆肥販売 | 地元野菜売場 |
【地域との結びつき】 平成29年、伊勢市の三重県立明野高校とビールを製造販売する会社(伊勢角屋麦酒)が、ビールを作る際に排出されるモルト粕の有効利用のため、サイレージ化による給与試験を行ってきた。その結果、モルト粕サイレージを与えた豚は生育が良くなった上、肉質も向上するなどの効果が得られた。 三重県エコフィード等利活用研究会に所属する金昭氏は、平成28年にアコヤ貝の粉末を飼料として活用していたこともあり、地域食品企業と農業高校生によるSDGsの活動に賛同し、令和2年12月から肥育豚へのモルト粕サイレージ給与試験を自社農場で行った。明野高校での結果同様、豚の嗜好性もよく、生育が促進され出荷までの日齢が短縮された。また、ロース肉中の粗蛋白質が優位に増加し、かつ粗脂肪が低く、課題となっていた厚脂の改善効果、臭い対策、衛生費の削減にも寄与し、現行飼料との相性も非常に良かったことから、令和3年4月に本格的な給与を開始している。 伊勢志摩地域での資源循環型養豚の実現に向けて、畜産を学ぶ高校生、食品企業、養豚農家の連携により誕生した新たなブランド肉「伊勢志摩パールポークほろよい」の名前は、連携する明野高校生が命名し、この取り組みを通じて志摩市のSDGsパートナーとして、地元小学校への出前授業等、持続可能な養豚業の理解を深めた畜産モデルとして全国へ発信していく。 |
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![]() 明野高校生と志摩市訪問 |
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![]() 女性は農場に1名、店舗に6名が従事している。妻は、子供が小学校にあがったタイミングで就農し、繁殖部門の分娩舎と離乳舎を中心に女性ならではの気遣いをもって管理している。また、令和元年から会計も担当し、会社を支えている。 店舗の6名はパートタイムでワークライフバランスに配慮したシフトを組んで採用している。 【職場環境の整備】 女性の就農を機に、外来者用とは別に農場内に従業員専用のシャワールームを設け、トイレを簡易式から常設トイレに改修している。 また、働きやすい職場整備として、就業規則の整備に取り組んでいる。 |
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【次世代への承継】 金昭氏の考えもあり2人の息子は、社会人と学生で経営を離れているが、2人とも養豚業への参画の意向を示している。息子たちは、三重県農林水産ビジネスプランプレゼンテーション大会2022に参加し「「IT」×「養豚」×「地域力」で持続可能な養豚事業を次世代へ引き継ぐ」をテーマに現状業務の課題を抽出し、属人的業務の共有化の提案等、経営改善を発表することによって、将来を見越して経営の関わりを持ち始めている。 ![]() 【6次化への取り組み】 肉質を重視した三元豚(WLD)の「伊勢志摩パールポークほろよい」は、脂身が美味しいとの評判も高く、店舗で製造する手作りミンチカツ(メンチカツ)は作ったらすぐ完売する地元のソウルフードとなっている。高品質なブランド肉として地域に認知されてきており、地元のレストランや宿泊施設の食材として利用されるとともに、加工品のあらびきウィンナーは、志摩市の優れた地域資源として「志摩ブランド」に認定されている。 また、コロナ禍の時であっても、店舗全体の売り上げは減少したが「伊勢志摩パールポークほろよい」は、安定した売り上げをキープしていた。 【今後の経営計画】 河井ファーム肉よしは、生産する豚肉に付加価値を加え「消費者の皆さんに安心、安全で美味しい豚肉をお届けする」という経営理念を実現しているが、その適正規模がどこにあるのか、就農する息子たちへの承継を視野に入れ、規模拡大だけではなく経営の質の向上を目指し、持続可能な経営計画を模索している。 |
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